第44話 新しいメニュー

 元の小屋に戻って来た。

 レティシアは石像となって立ったままだ。


「石化が治らない……」

「そうじゃな……」

 

 治す方法は有るのか? このままにしておくのも……。


「あたい、街で解石のアイテム売ってたの見たよ」

「マジで!?」

「うんうん、あたい偉い?」

「ヴァージュ、偉いぞ!」


 俺はヴァージュの頭を撫でる。

 何故、目を瞑って口唇を突き出しているかは……聞かない。


「街までアイテムを買いに往復するとして、一週間近く掛かるよね。レティシアを置きっぱなしには出来ないな」

「それは簡単な事じゃ」

「え? 何か良い方法が?」

「有るのう」

「どうするの?」

「街で酒に付き合ってくれるかの?」


 クリスまで交換条件を……間違い無くヴァージュの影響か。

 ま、天使クリスちゃんなら、嫌って言われるまで付き合うけどね!


「勿論、付き合うよ!」

「そうか! 流石、蓮斗じゃ!」

「あたいも飲むー!」

「分かった分かった。それでクリス、その方法とは?」

「魔袋じゃ。小娘を中に入れて運べば良い」

「なるほど……」


 魔袋に人を入れる発想は無かった。

 んじゃ早速……動かないぞ。


「ヴァージュ、ちょっと手伝ってくれ」

「いいよー!」


 二人で持ち上…………がらない。


「レーちゃん重いねー!」

「石だからね……」

「お胸が硬いねー!」

「それ、レティシアが聞いたら怒ると思うよ」

「蓮斗様も触ってみてよー!」


 え、良いの? いや石だし……でも……。


「何をやっとるのじゃ、小娘の頭から袋を被せれば良かろう」


 あ、そうですね。

 レティシアを魔袋に収納し、俺達は小屋を後にした。

 

「んじゃ、街に向かおうか」


 レティシアが居なくなり、傍から見ると一人の状態になった。

 このまま、クリス、ヴァージュの二人と話をすると、壮絶な独り言になる。

 ……気を付けよう。


「それでさー、蓮斗様ー」


 無理みたい。せめて影から出てくれよ。

 その晩、夕飯当番の筈だったレティシアは石化している為、俺が作る事になった。

 さて、今日は……。


「今日のご飯はなーに?」


 テント設営を終えたヴァージュが聞いてくる。

 あれ? 俺のイメージだと、ご飯って米なんだよね。飯イコールライス的な? でもこの世界では、ご飯イコールパンって感じがする。

 何か理由が有るのだろうか? 米が元々存在してて、パンが主食になった名残なのかな?

 旅の目的に、お米発見を追加しよう。


「今日は、パンとパンに合う物だよ」

「へー! クーちゃん、楽しみだね!」

「そうじゃな」


 今回は、街で見つけた食材を使った物なんだけど、見た目と味で選んだから、食感とか上手く行けばラッキーかな。


「出来たよー」

「やったー!」

「待っておったぞ! 何じゃ……この油まみれな物は?」

「パンを切って有るから、それに乗っけて食べてみて」


 二人共、不思議そうにパンの上に乗せる。


「熱っち……んぐ、んぐ……クーちゃん、美味しいよ!」

「むむ……本当じゃ、酒に合うの! これは何じゃ?」


 また、お酒ですかクリスちゃん……。


「これは、新メニューのアヒージョだ!」

「あ、あひ……? 良く分からんが、お主……酒場とか向いとるの!」


 え、そうかな?


「一応、失敗したら困るから、もう一品作っておいたよ」

「これは小さいのう……」

「これは前の世界で焼き鳥って言うんだ。こっちの世界だとバドラン串か?」

「む、これも旨い! 塩加減が酒に合うの!」


 塩、胡椒などの調味料は、元の世界と同じ名前なんだよな……買い物の時は困らないけど。


「蓮斗様と結婚したら、毎日美味しい物を食べられるね!」

「何を言っておるのじゃ! ……いや、それはそれで……」


 クリスちゃん! 俺はいつでもオーケーだよ!


「蓮斗様……クーちゃんばっかり見てる! ずーるーいー!」

「当たり前じゃ、蓮斗は儂の相棒じゃからな」

「あたいも相棒になるー!」


 酔っぱらいは放っとこう。

 そうだ、ステータス確認しとこ。

 ……あれ? スキルが増えてる。


〔転移者の記憶:転移者を倒すと、その者のスキルをランダムで得られる〕


 転生者の記憶の転移者版か。


〔転移者達の饗宴:転移者以外の意識を飛ばす。敵対する転移者が居ないと使えない〕


 これはメイスの転移者の能力か……。

 使えるか分からないけど、スキルは多い方が良いな。

 あ、粗品……。


〔粗品特典:転移者スキルガチャ〕

〔転移者スキルガチャを獲得しました〕


 目の前に、サイコロの様な箱が現れた。

 あーあ……言っちゃったよ、ガチャって。


〔鑑定に成功しました〕

〔転移者スキルガチャ:ランダムで転移者の対応スキルを手に入れる〕


 お、対応スキルって事は、絶対に剣関係のスキルって事!?

 遂に来たか!

 早速使うと、サイコロの様な箱が転がり、2の目で止まった。さぁ、何だ!?


〔スキル:剣技、雷迅閃斬を獲得しました〕


 それっぽい名前!

 剣技獲得は大きいな。今度、試しに使ってみよう。

 今日は疲れたし、もう眠たいな……。


「それじゃ、そろそろ寝るよ?」

「おやすみー! あたいはもう少しクーちゃんとお話してから寝るねー!」

「お休みじゃ、蓮斗」

「お休みー」


 クリスちゃんとヴァージュの会話も気になったが、今日は眠気の方が勝っていた。

 時折、笑い声が聞こえ、気になったが…………。


 ……あ、朝だ……ん?

 右腕には剣、左腕にはヴァージュが寝ていた。多分、クリスは寝ている最中に、剣に戻ってしまったのだろう。


「おはよー! 二人共、朝だよ!」

「う……お早うじゃ……」

「蓮斗様、おはよー、チュー!」


 無理矢理チューをしてくるヴァージュを押し退け、テントの外に出る……良い天気だ。


「もう! 蓮斗様ってば……」

「お主が強引過ぎるんじゃ」

「そーかなー? クーちゃんも迫ってみたら?」

「ば、馬鹿者! そ、そんな事出来る訳無かろう!」

 

 丸聞こえですけど……。

 さ、街に向けて再出発だ!



 

 新しいメニュー、考えておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る