第43話 ヴァージュの余裕
また、腕六本かよ……火球が六個か。
レティシアが狙われ無いとしても、俺とヴァージュに三個ずつ……厳しい。
今更だけど、盾を買って置けば良かった。
「蓮斗様、良い方法を思い付いた!」
え、上手い方法が有るの?
「因みにどんな?」
「チューしたら、教えてあげる!」
俺はヴァージュの脳天に軽くチョップした。
「うー……」
「いいから、早く教えてくれるかな?」
「蓮斗様のいけずー」
いけずって、何だよ……。
それより、は、や、く!
「んとね……」
悪魔が腕を掲げる。
あーあ、だから言ったのに……心の中で。
「蓮斗様、そこで見てて!」
ヴァージュは、六個の火球を目掛けて走り出す。
「ヴァージュ!」
あまりの無謀さに思わず叫ぶ。
ヴァージュは一番速い火球と、一定の距離を取りつつ壁まで走る。
壁を背にすると、遅い来る火球を全て躱し、六個全てを消滅させた。
「ふぅ……やったね!」
凄いな。ヴァージュの素早さが有っての芸当だろう。
「蓮斗様! また来たら、あたいが躱している間に攻撃ね!」
「分かった!」
ヴァージュ、何て頼もしいんだ。
「蓮斗様! 後でご褒美のチューねー!」
余計な一言が無ければ……。
そして、火球チャンス!
ヴァージュが火球を完全に引き付けたところで……俺の攻撃だ!
「がぁぁぁ……」
レティシアやヴァージュより俺の攻撃力が高いせいか、かなりダメージが入ってるっぽい。
このまま、行けるか?
「ぜぇ、ぜぇ……」
「ヴァージュ、大丈夫?」
「何とかね!」
「一応、これ飲んで!」
俺はスタミナポーションをヴァージュに渡すと、グビグビと一気に飲み干した。
「ふっかーつ! 蓮斗様、ありがと!」
ここでヴァージュに倒れられると、正直勝てる見込みが減るしね。
「さぁ、来るよー!」
かれこれ十回程、この方法を繰り返しただろうか。悪魔は弱る感じは……全く無い。結構タフだな……。
一方、レティシアは、胸の辺りまで石化が進んでいた。
「クリス、この石化魔法ってさ……使用者が倒れると、解けるものなの?」
「それは何とも言えんの。魔術の場合は術者が倒れるか、死ぬ事で解除される場合も有るの。術式の途中と言う仮定じゃが」
「魔法の場合は?」
「魔法じゃと、術式が完成された状態で発動される場合が多いのじゃ。そうなると解除は怪しいの」
「今回はどっちだろ……?」
「儂が思うに、今回は魔法か特殊能力じゃな」
「特殊能力って場合は?」
「それは……何とも言えんのう」
どの道、倒してから……か。
「蓮斗様!」
「オーケー!」
悪魔はまた腕を掲げ……る?
「ヴァージュ、気を付けろ! 腕が八本に増えてるぞ!」
「えー!?」
ヴァージュが体を張ってくれてる……今の内に攻撃しなきゃ!
「喰らえ! 剣技、廻陣炎舞!」
俺はレティシアから教えて貰った、覚えたての剣技で攻撃、ダメージを当てつつ腕二本を斬り落とした。
「ヴァージュ! 大丈夫か!?」
「蓮斗様……」
「どうしたっ!?」
「麻痺っちゃった、あははっ!」
いや……笑い事じゃ無いんですけど。
「クリス、重力魔法を!」
「今しか無いの! 承知じゃ! 大地と大気に彷徨う精霊達よ……」
詠唱中は悪魔の意識を俺に向ける為、縮地術を駆使して連続で攻撃を繰り出す。
「喰らのじゃ! 重圧の気!」
悪魔はクリスの放った魔法を喰らい、地べたに這いつくばる。
よし、掛かった!
俺は無防備な悪魔に向かって攻撃。
本当は腕を斬り落としたかったが、地面に倒れている相手の腕を斬り落とすのは、体勢的に無理があった為、ひたすら剣撃を浴びせる事に。
「がぁぁぁ!!」
悪魔は絶叫……行ける!
「蓮斗! そろそろ時間じゃ!」
「了解!」
最後の一撃を与えようとした瞬間、悪魔は俺の剣を手で掴んで攻撃を止めた。
「な、背中から腕が!」
「早く離れるのじゃ!」
クリスの声で気が付き、縮地術で脱出する。
悪魔は、よろめきながらも立ち上がる。
切断した筈の腕も生え、腕が八本と背中に一本の計九本に……何だよこれ……。
でも確実に弱っている。今、三人なら行けそうなんだけどな……。
「ヴァージュ! 麻痺は!?」
「絶賛麻痺中だよ!」
絶賛って……使い方が変だよ、ヴァージュ。
「レティシア?」
レティシアの身体は、胸の上の辺りまで石化しており、当人は気を失っている。
「クリス、もし俺が戦闘不能になったら、次元龍を頼む……」
「それは……そうじゃろ、どうせ動けなくなるのじゃから」
あれ……? そういや悪魔が腕を掲げない?
「悪魔、炎を使って来ないな……」
「魔力が枯渇したのかの?」
取り敢えず、攻撃を仕掛ける。
俺の攻撃は簡単に受け止められ、反撃を喰らいボコボコに殴られる……。
「ぐふっ……がはっ…………痛い……」
HP、四割ぐらい減った!?
腕が九本は正直辛いわ……。
「蓮斗様!」
「はぁ、はぁ……どうした、ヴァージュ?」
「チューしてくれたら、麻痺が解けるよ!」
「マジで!?」
「マジで!」
「絶対、嘘じゃな」
ですよねー。
でもヴァージュって、何か余裕が感じられるよな。
「ヴァージュ、麻痺が切れたら叫んでくれ!」
「分かったよ……」
ん、何か暗いな?
「だから、チューしてくれたらって、言ってんじゃん……」
……無視しよう。
麻痺が回復するまで、接近と離脱を繰り返して撹乱だ。
縮地術を発動しようした時だった。
「蓮斗様!」
「どうした!?」
「トイレ……」
「……」
こっちの世界でもトイレって言うんだ、へー。
流石にイラッとした。
「嘘、怒らないで、蓮斗様! 麻痺が解けたの!」
ヴァージュは俺の苛立ちを察知したのか、本気で謝る。
「クリス、回帰術を使って三人で攻撃だ!」
「心得たのじゃ!」
三人での連携攻撃は、弱っている悪魔を圧倒した。
途中、クリスの剣が折れるも、拳と蹴りで対応していた。
遂に悪魔を倒す事に成功、悪魔は光り輝いた後に消滅した。
俺達は胸を撫で下ろす。
しかし、レティシアは完全に石化し、元には戻っていない。
「おめでとう御座います」
代行者が拍手をしながら現れた。空気を読まない奴だ。
「今回の試練は完遂となります。報酬として粗品を贈呈致します」
「今回の情報は?」
「はい、今回の情報開示は御座いません」
「そうか……」
「今回の粗品もランダムになります。後程、ご確認下さい。では、またのご利用を、お待ちしております」
俺達は以前と同じく、眩しい光りに包まれた。
ヴァージュ、余裕有り過ぎ……ある意味、冷静なのかな?
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