第42話 悪魔の腕

 代行者が消えると、奥の地面から魔物が現れる。

 今回は一体のみ、パッと見は人。

 鋭い眼光……手足の爪は長く、背中には大きな翼が付いていた。

 これは、悪魔か?


〔看破に失敗しました〕


 駄目か、HPくらいは見たかったな。


「蓮斗、構えるのじゃ!」


 全員、身構える。

 悪魔は浮き上がり、ゆっくりと近付いてくる。


「先手必勝、双刃の舞い!」


 ヴァージュの高速連続斬り。悪魔は全ての攻撃を爪で防いで見せた。


「あの魔族、凄いね!」

 

 全部防がれたのに、何で嬉しそうなんだろ?


「私も負けていられませんわ!」

「俺も!」


 俺の縮地術で正面攻撃、その隙をレティシアが側面から突く。


「ぐぉ……」


 レティシアの攻撃が当たり、少しだが悪魔は顔をしかめる。

 今回は結構行けるんじゃない!?

 もう一回……と思った瞬間、悪魔は少し後ろに下がる。

 下がった悪魔は、両手を広げる。


「何だろ?」


 両手の平から炎が現れ、二つの炎が悪魔の頭上で停滞した。


「火球じゃ!」


 炎は球になり、俺達に向かって飛んでくる。


「隙有り!」


 ヴァージュは、火球と交差する様に走り出し、悪魔に一撃を加える。

 俺達は火球の回避…………何か、追っ掛けて来るんですけど?

 火球のスピード自体は、大した事が無いんだけどね。

 レティシアは壁まで走り、ギリギリの所で回避。見事に火球を壁に当て、消し去る事に成功した。

 おー! 俺もやってみよっ!

 どうせなら……。

 俺は縮地術で一気に距離を詰め、一閃……簡単に防がれる。ここで火球を近付いたのを見計らって、縮地術で離脱……あれ? 火球が来ない?


「わっ!」


 火球は近くに居たヴァージュへ向かい、驚きながらも何とか避けていた。

 

「蓮斗様、酷いよ……後でご褒美頂戴ね!」


 褒美って何だよ……。

 そっか、縮地術だと速すぎて、目標が変わってしまうのか……ごめん、ヴァージュ。

 にしても、防御の巧い悪魔だ。でもこれ、レティシアと二人で攻撃して、ダメージを与える事が出来たから、三人同時で行けば……。


「皆! 縮レヴだ!」

「分かりましたわ!」

「分かったよー!」

 

 縮レヴとは、旅の道中で考えた攻撃パターンだ。文字通り、縮地術で俺が突っ込み、続けてレティシアが側面攻撃、最後に背後へ忍び込んでのヴァージュが連続攻撃って感じ。

 言い易いし、初見だと第三者には分からないと言うメリットが有るって事で採用した。

 案の定、攻撃がバシバシ当たる。


「このまま、押し通すぞ!」


 調子良く当たっていた攻撃が、急に弾かれ出す。

 あれ? どしたの? 俺の縮地術で攻撃、離脱は、元々当てる為のものでは無いので良いんだけど……。


「蓮斗さん、手が……」


 手? なんだ?


「あたいの方にも有るよ!」

「一旦、距離を取ろう!」


 うわ、いつの間にか腕が六本に増えてる!

 しかも、この距離を取ったのが悪かった。

 悪魔は六本の腕を上に掲げ、それぞれの手から三色の炎を出現させた。

 赤、白、黄色……チューリップか!


「皆、気を付けるのじゃ!」


 恐らく、赤はさっきの火球だろう。残りの二つは……?

 悪魔から六つの炎が放たれる。

 厄介な事に、各色スピードがバラバラ。

 俺の所には赤と白が来た。白が速く、そいつを壁に当てて打ち消し、赤も同様に打ち消した。

 ヴァージュは赤と黄色で、同じ感じで打ち消す事に成功。

 問題はレティシアだった。残る白と黄色だったのだが、速度差が若干だった為、軌道の違う炎を二つ同時に避ける羽目になる。

 レティシアは避けきれず、黄色が当たってしまった。


「きゃっ…………か、身体が痺れて動きませんわ!」


 て事は、黄色は麻痺か!

 そこに白い炎がレティシアに当たる。


「きゃ……痛……くない?」


 ん? 痛くないのか……良かった、ダメージは少なさそうだ。

 安心したのも束の間、レティシアは恐怖に震える。


「い、嫌ぁー!!」

「どうしたんだ! レティシア!」

「蓮斗様、レーちゃんの脚!」

「え? えぇ!?」


 レティシアは脚は、灰色に染まる……まるで石の様に。


「石化魔法じゃ!」


 レティシアの両足は石化しており、そこから徐々に石化が上に向かい進行していく。


「クリス、もし……もしもの話だけど、レティシアの下半身が砕けた場合は?」

「術が解けたとしても、下半身が欠損した状態になるの……」


 駄目だ! それは絶対に阻止しなければ!


「悪魔! こっちだ!」


 俺はレティシアから気を引く為、逆位置に陣取って挑発する。


「ぐるる……」


 よし、作戦成功! 作戦って程のモノじゃ無いけど。

 さて、どうするか?


「クリス、火炎魔法を! ヴァージュ、当たったら腕を狙うぞ!」

「承知じゃ!」

「分かったよー!」


 クリスの放った火炎の輪が、悪魔を縛り付ける。


「今だ!」


 俺とヴァージュは、腕を一本ずつ斬り落とす事に成功した。


「蓮斗様、やったね!」

「喜んでいる暇は無いみたいだ!」


 悪魔は残った四本の腕を掲げる……色は赤と黄色、最悪の石化は無くなった!

 上手い具合に、赤と黄色がそれぞれの方に向かう。

 ラッキーだ。避けやすいし、レティシアも狙われて無い。

 俺達は難なく回避し、仕切り直しとなる。


「もう一回行けるか?」

「どうじゃろうな……?」

「クーちゃん自信無いの?」

「何か……嫌な感じなんじゃよ……」


 珍しいな、クリスがこんな事を言うなんて。

 でも、重力魔法は取って置きたいところ。


「クリス、ごめん、もう一回」

「……分かったのじゃ」


 火炎の輪が出現、悪魔を縛り付ける……さっきと何ら変わらない。

 また、腕を一本ずつ切断する事が出来た。

 やった! これであの遅い火球だけになったぞ!


「う……がるるる……」


 ん、何か様子がおかしい……。

 悪魔は一声叫ぶと、体から四本の腕が生えてきた。

 

「な、なんて事だ……」


 また、振り出しに戻ってしまった。




 クリスの勘は凄いな……。

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