第35話 転移者vs転生者

 俺とレティシアは、交互に攻撃を仕掛ける。

 ずっと一緒に旅をして来ただけあって、連携攻撃の切り替えの速さは、かなりの出来になっていた筈だが……。


「なかなか良い連携たが、まだまだ遅いわっ!」


 俺達の攻撃は、全て巨大な斧に阻まれてしまっていた。


「くそ……」

「意外と速いですわ……」

「お前らが遅いんだよ! どれ…………」


 何だ? 俺達をじっと見てる?


「何だそのHP! これなら瞬殺だな! がっはっはっ!」


 HPを看破された!?


「そうか、お前……転移者か」

「だったら、何だよ!」

「良かったな。死んだら、強者に転生出来るかも知れんぞ!」


 この野郎……完全に勝つ気でいるな。

 正直、この自信が不気味だ。

 転生者も何か優遇されてるよな……きっと。

 まさか、チート能力でも有るのか?


「先ずは姉ちゃん、死になっ!」

「そう簡単には死にませんわ!」


 レティシアが間合いを詰める。


「喰らいなさい!」


 レティシアの連続攻撃……最後の一撃の剣が、ガバードの腕に刺さる。

 やったか!? 喜んだのも束の間……。


「痛いな、姉ちゃん……」

「け、剣が抜けない!」

「小娘! 剣を離せ!!」


 ガバードはニヤリと笑い、斧から手を離してレティシアを殴り付けた……恐ろしい力で。


「がっ……ごほっ、ごほっ……」


 口から血を吐き出して、そのまま倒れ込んでしまった。


「レティシアー!!」


 HP……まだ残ってる!


「くそっ!」


 俺は縮地術で一気に間合いを詰めて斬り付けるが、また防がれてしまった。ただ、レティシアへの気を削ぐ事には成功した。


「随分、動きが速いな……それがお前のチート能力か?」


 そんな事は無い。だって俺にはチート能力が備わっていないから。

 ん? チートって言った? やっぱりこいつ、チートを持っているのか?

 もしそうなら……ヤバい、早く倒さないと!

 俺は気の焦りで、がむしゃらに攻撃を続ける。


「落ち着くのじゃ、蓮斗!」

「くっそー!」


 クリスの声を無視し、更に攻撃するが……。


「おうおう、必死だな!?」

「はぁ、はぁ……」

「もう終わりか? 全然喋らんし、つまらんな! あ、余裕が無いのか。がっはっはっ!」


 やれる事は全部やるんだ!


「クリス、遅延魔法だ!」

「うむ! クリスの名に於いて命ず、我を取り巻く風の精霊よ、我に対峙するものの瞬く時を我に与えん」

「遅延魔法か……ガバードの名に於いて命ず、風の精霊達よ、我に取り巻き、我に翼を宿らせよ!」

「クリス、今のは!?」

「加速魔法じゃ……」


 つまり、相殺したって事か!


「お前……俺が魔法をそんなに使えないって、先入観で戦ってるだろう?」

「くっ……」

「やはりな! 俺はそんな奴を沢山殺してきたんだよっ! 爽快だったなー!」

「なんて奴だ……」


 もう怒りで……どうにかなりそうだ……。


「うらぁ!」


 ガバードは斧を軽々と持ち上げ、尋常じゃないスピードで叩き付けてくる。


「ぐっ……」


 剣で受け止めだが、HPバーは容赦無く減っていく……。

 強すぎる……何とか打開策を……。


「おらぁ!」


 考える間もなく、次の攻撃が来る。

 俺は剣で受け流そうとするが、ガバードはそれを察知し、そのまま体当たりをしてきた。


「うがっ!!」


 急激にHPが減っていく! もう3割を切ったか……。

 レティシアは倒れてしまった、クリスの魔法も効かない、俺の手持ちのスキルも、使えて縮地術くらい……。

 ……残るは、憑依と人化か……。


「クリス……憑依したとして、勝てる見込みは有る?」

「今回は厳しいじゃろう……蓮斗……お主は、お主が思っている程、弱くは無い……儂が憑依しても、少ししか変わらない程、強くなっておるぞ」

「あ、ありがと……人化しても、駄目かな?」

「蓮斗は、魔法の剣が使えなくなるのじゃ……分が悪いと思うのう」


「お喋りは終わったか? そろそろ殺してやろう!」


 何とか……何とかしないと!


「お前の能力は、その巨大な斧を使えて、更に魔法が使えるって事なのか?」


 もう、くだらない話で時間を稼いで、その間に何か方法を……。


「どうせすぐ死ぬからな……冥土の土産に教えてやる。強い武器を使い、魔法も使えるだけでも、俺はチート級だ! 更に俺には、経験値獲得十倍と言う最強のスキルが有るのだ! がっはっはっ! 」


 何だよそれ! でも特殊攻撃的なチート能力では無いのか。

 それにしても、悔しい……何で俺にはチートが無いんだ!

 転生者は貰えても、転移者は貰えないのかよ!


「蓮斗、儂が魔法を使う」


 小声でクリスが話し掛けてくる。


「火炎のやつは、効かなかったじゃん」

「違う魔法じゃ、かなり強力な方じゃが……」

「が? 問題が有るの?」

「うむ、HPの八割以上を消費するのじゃ……更に……術後は動けなくなるのじゃ」


 八割以上? 前に5000以上有るって言ってたな……仮にそのままだとして、残りは1000を切るって事か……更に動けないって事は、人化は使えなくなる……。


「死ぬより、全力で当たる方が先かと思ってのう」

「分かった……それに賭けよう。俺が縮地術で撹乱する。その間に頼む」


 俺は連続で縮地術を使い、ガバードを撹乱する。


「ちょこまかと、目障りな……」


 俺はひたすら移動する。クリス頼んだ……。


「我は呼ぶ、秩序と混沌の狭間に生ける者よ、我が血肉を贄として、瞬く時にて我に従い、我が仇を滅ぼせ! 出でよ、暗黒の次元龍!」


 剣の先から重力波が発生する……重力波は、一番近い俺達を飲み込み、立っているのがやっとだ。

 

「何だこれは!?」


 流石にガバードも焦っている様に見える。

 重力波は球体で、その範囲はどんどん広がり、ガバードも全く動く事が出来なくなった。


「こ、こいつは!」


 初めてガバードが、恐怖で顔が引きつる。

 辺り一面を暗闇が包むと、地面から大きい黒い龍が現れる……。


「ドラゴンだと!?」

「次元龍よ、奴を焼くのじゃ!」

 

 そのドラゴンは、ガバードに向かい口を大きく開くと、黒い炎を吐き出しガバードを炎で包んだ。


「や、やめろ! がぁ!!」


 絶叫……見ているコッチも辛い……。

 全てを焼き付くすと、ドラゴンは地中に沈んで消えてしまった。

 そこには、立ったまま真っ黒になったガバードが居た。


「た、倒した?」

「かの……?」


 黒焦げになった人……ん? 今、腕が動かなかったか?


「……ふふふ……くっくっく……がっはっはっ!」


 な! い、生きてる!?


「惜しかったなぁ!」


 HP残り25!? ギリギリ耐えたのか!

 ヤバい……殺られる……体勢を整えないと!


「うっ! お、俺も動けない!」

「な、何じゃと!?」


 ガバードは、ゆっくりと俺達に向かって歩き出した。




 殺される……。

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