第34話 お供え物

 魔物は人型で、最初は容赦なく襲って来たらしい。

 ところが、村長を見つけると示談となり、お供え物を毎日納める約束で、村を襲わないと言う事になったらしい。

 少なくとも、知能が有る人型の魔物ってのは分かるけど……。


「胡散臭いの……」

「俺も同意だね……」

「私は嘘なんてついておりません……」

「あ、そう言う事じゃないですから、心配しないで下さいね」

「はい……」


 子連れの母は、かなりビクビクしているな。


「蓮斗さん、助けに行きませんか?」


 流石、正義感の強いレティシア。


「よし、行こう!」

「有り難う御座います、有り難う御座います……」


 何度もお礼を言われた。

 お礼は解決後に、と言って、先ずは村を目指す。

 村には特に名前が無く、人口は五十人くらいだそうだ。

 そして、今回のキーマンである村長が現れたのだが、意外と若くて驚いた……四十代くらいだろうか?


「シエラ、何を勝手な事を言ってるんだ!」

「すみません、村長……」

「あんたら、冒険者か? 用はない、帰ってくれ!」

「魔物を放っておけと?」


 俺はちょっとだけ、凄んでみた。ちょっとだけね。


「迂闊な事をすれば俺らが殺される。あんたらは、その責任を取れるのか!?」


 ま、確かに……。


「分かった……」

「蓮斗さん!」

「レティシア、ここは引こう」

「はい……」

「分かってくれて助かる。さぁ帰ってくれ!」


 シエラと呼ばれた母の親子は、悲しい顔してコチラを見てきたので、俺は軽く目で合図を送ってみた。気付くかな?

 村の外まで歩いてきた所で……。


「蓮斗さん、本当に放っておくのですか?」

「まさか!」

「え!?」


 丁度、シエラが駆け寄って来た。


「待ってたよ」

「やっぱり何とかしてくれるのですね!?」

「任せてくれ!」


 その会話を聞いたレティシアが安堵する。


「さて、色々と聞きたいんだけど?」

「答えれる事は、全て答えます」


 シエラに色々と質問した。

 まず、魔物へのお供え物を置く場所、その場所で戦うしか無いからね。

 お供え物を置く時間、これは午前中のお昼ちょっと前らしい。

 置きに行く人は、シエラ、村長で一日置きに行ってるらしい。

 置く物だが……お供え物を置く時にメモが有って、それを次の日に持っていくとの事。

 基本は食べ物らしいが、中には食べ物と若い女性と言う場合も有るらしい……なんて、うらやま……酷いんだ。

 一度お供えした女性は、当然帰って来なく、生きているかも分からないとの事。

 一通り教えて貰って、シエラを村に帰した。


「なんかさ……魔物なのこれ?」

「私も……山賊かと思いましたわ」

「あたいもー!」

「儂は山賊紛いの魔物じゃと思う」


 何れにしても、倒さなきゃ駄目だな。

 早速、お供え物を置く場所で張り込みだ!

 

「これは……」

「廃墟……ですわね。元は教会でしょうか……」


 こっそりと教会の中を覗く……椅子は全て端の方に追いやられ、真ん中にはテーブルだけが置かれている。

 テーブルの上には、肉料理やフルーツの様な物が置かれている。


「まだ、回収にされてませんわ」

「教会から離れて、見張る事にしよう」


 俺達は教会から離れ、木に隠れる様にして教会の入口を見張った。


 …………日が暮れた。


「そろそろ交代するよ?」

「お願い致しますわ」


 日が暮れてからは、俺とレティシアで交互に見張る。

 暫くこれが続くのだが、かなり遅い時間……時間感覚が分からないけど、恐らく深夜帯……ついに教会へ入っていく者が現れた様だ。


「蓮斗さん、来ましたわ……」

「ん? あぁ……」


 仮眠から起きた俺は、レティシアと共に教会に向かう。

 中を覗くと……大柄な魔物と思われる奴が、グチャグチャと汚ならしい音をたてながら、美味しそうに肉を食べていた。

 どうする……対話か? 問答無用で奇襲か?


「メモを残すと言うは、字を書けると言う事じゃから、話しをしても良かろう?」


 クリスの言う通りか……。


「おい、お前!」


 大柄な者は驚いたのか、ビクッとして食べながら振り向いた。

 この姿は……でかいゴブリン? ゴブリンロードとか?


「貴様ら……何者だ?」

「通りすがりの冒険者だよ」

「クックックッ、そのまま通り過ぎていれば死なずに済んだのにな!」


 魔物は巨大な斧を持ち上げ、俺達に敵意を剥き出した……話し合いは無理だな。

 HP確認!


〔名前:ガバード 種族:鬼人〕

〔称号:転生せし者〕

〔レベル:16〕

〔H P:5134〕

〔その他:閲覧権限がありません〕


「え……お前、転生者か!」

「ほう……何故分かった? 分かったところで死ぬのに変わり無いがな!」

「ちょっと待て! お供え物と一緒に来た女性は何処にいる!」

「壊れちまったから、崖から棄てたわ!」


 怒りが込み上げてくる……。

 こいつの前世は何だろう……もし人間だったとしたら……許せない!


「死ね! 小僧!」


 俺は剣で受け止めたが、巨大な斧の威力に弾き飛ばされてしまった。


「くっ……」

「がっはっはっ! 人間は脆いな!」


 今、こいつ人間って言った? この世界の住人は、人間の事を人と呼んでるよな……。


「お前、元人間だな?」

「そんな時代も有ったな!」

「元人間のお前が、何故こんな酷い事を?」

「ここは良い! 弱肉強食の世界で、強者に転生出来たからな! 強者の特権を使わなきゃ勿体無いだろう!」

「絶対に許さない…………クリス! 火炎!」

「承知!」

「ふん、インテリジェンスソードか!」


 こいつ、インテリジェンスソードを知っているのか。


「我と契約せし炎の精よ。今再び我の元にて、その姿を現し我の力となれ……」

「火の魔法か……我は求める、水の精達よ我が芯に集まり、邪気より我を守れ……」


 奴も魔法を!?


「我が剣に宿りて、その業火で敵を討ち滅ぼせ……」


 クリスの火炎の輪がガバードを捕らえようとした瞬間、ガバードの周りに水の壁が出現し、火炎の輪を打ち消してしまった。


「何じゃと……」

「クリスの魔法が……」

「がっはっはっ! 焦る顔を見るとゾクゾクするな!」


 こいつ……イカれてる……。


「レティシア、いつもより早目の連携攻撃で行こう!」

「分かりましたわ!」

「やれるもんなら、やってみやがれ!」 


 ガバードは自信たっぷりと言い放った。


 


 絶対に許さないぞっ!

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