第33話 野営戦!?

 そして、本日の野営地が決まった。

 テントの設営は、俺の仕事だ……男だし、これぐらいは……ね。

 いけね……薪が少ないな、少し集めてくるか。


「ちょっと、薪を取ってくるね」

「宜しくお願いしますわ」


 野営地点から、五分程離れた所まで来ると、薪に使えそうな枝が結構拾えた。


「日が暮れてきたね」

「そうじゃな」


 地面から、ぬーっと人が出てくる。


「やっと、日が落ちたね」


 ヴァージュか……ビックリするわ。


「ねぇ、蓮斗様?」

「何だい?」

「そこの木、目と口が有るように見えるね!」

「え……本当だ……しかも、ゆっくり歩いている様にも見えるね」

「愚か者共! 魔物じゃ!」

「うぉっ……」


 俺は直ぐ身構えたのだが、ヴァージュが既に飛び蹴りを当てていた。

 早い……。

 兎に角、基本の看破だ。


〔名前:トレント 種族:樹人〕

〔レベル:22〕

〔H P:4583〕

〔その他:閲覧権限がありません〕


 樹人? そのまんま木の人か。HPが少し高いけど、火炎系が効きそうだし大丈夫か。


「もう一回!」


 ヴァージュの蹴りが炸裂する……あれ? HPが全く減ってない!


「ヴァージュ! 蹴りは駄目だ! 全く効いてないよ!」

「えぇ……それじゃあ!」


 ヴァージュは、腰元から二本の短剣を取り出し、そのまま攻撃に移る。


「行くよん、双刃の舞い!」


 ヴァージュは両手に持った短剣を使い、連続で斬り付ける…………何回斬ってるの!?

 残りHP2247……強いな……。


「儂らも行くぞ!」


 俺も縮地術で間合いを詰め、一撃……連続は無理です。

 HPは……1692? 俺、強くなった!

 その後、トレントの攻撃を受ける事も無く、次の二人の攻撃でアッサリと倒した。


「余裕じゃん!」

「強くなったの」

「あたいのお陰かな!」

「……ありがと?」

「未来の旦那様の為だし!」

「な…………」

「図々しい小娘が増えたの……」


 倒したトレントの残骸……薪にしよう。

 薪を拾い終えた俺達は、野営地点に戻る。


「お帰りなさい、蓮斗さん」

「ただいまー」

「丁度、夕食が出来たところですわ!」


 ナイスタイミングだ。今日のお鍋は……。


「本日は、シンプルにザハドンの鍋ですわ!」

「ありがと!」

「良いの! 酒に合いそうじゃな!」

「あたいも大好きー!」


 ザハドンって何だ! 怪獣か!

 鍋の中を覗くと……赤いね……もしかして……。


「あれー? クーちゃん? 可愛い!」

「そ、そうかの? お主、見処があるの!」


 人化したクリスによく気付いたな。

 しかも、一言で仲良しになりそうだ。


「では、いただきまーす」


 ん! 少しピリッと辛い……白菜らしき物も美味しいな……やはり、これはキムチ鍋!


「美味しいよ、レティシア!」

「蓮斗さんに、そう言って頂けると……」

「旨い! 小娘、料理だけは一人前じゃな!」

「だけは、って……どう言う意味かしら!?」

「そのままじゃのっ!」


 は、始まった……。

 ここから、一時間以上の戦いが繰り広げられる。

 ヴァージュは初めて見たせいか、まるでテレビを見ているかの様に、楽しみにながら食事を摂っていた。


「蓮斗様、二人は面白いし、鍋もお酒も美味しいね! 蓮斗様は、お酒を飲まないの?」

「俺、飲み慣れてなくて……弱いし」

「ふーん、そうなんだ……」


 何かヴァージュのやつ、ニヤニヤしているな……何か企んで無ければ良いけど。

 

「んじゃ、寝るか……」

「儂も寝る!」

「あれ……そう言えば、クリスは寝なくても大丈夫じゃないの?」

「人化しておると、眠くなるのじゃよ」


 人化の状態だと、朝まで寝る事が出来る様だ。起きたら剣に戻ってた、って感じらしい。

 剣のままだと寝れなくて、朝まで意識が保ったままになって暇だそうだ。

 でも、これって最強の見張り番じゃ……?

 

「じゃあ、おやすみ」

 ……って寝れるかっ! 右腕にクリス、左腕にレティシア、何故か股の所にヴァージュが……。

 股はマズいでしょ! 股は!


「ヴァージュ、場所変えてくれないかな?」

「……むにゃむにゃ……蓮斗様……」


 寝るの早っ! あーあ……これは……また……寝れない。

 これが毎日続かない様に祈りながら、寝る努力をした。



 ……朝になった。最後、少し寝れたかな。

 眠たい……でも二度寝すると、怠くなるから起きる。

 ログインボーナスを貰わなきゃ。


〔日課特典:結界の水晶〕

〔結界の水晶を獲得しました〕


「はい、被ったー!」

「何じゃ急に?」


 しまった、声に出てた。


「あ、おはよ。クリス」

「おはようじゃ……ではなく、どうしたのじゃ?」

「いや、結界アイテムが手に入って、レティシアと同じ物じゃ意味無いなぁと……」

「そんな事じゃったか」

「ごめん、急に声出して」

「気にするで無い……それにしても小娘共は、お寝坊じゃのう」


 確かに……結構大きめの声だったけど、二人共起きないな。


「ねぇ、クリス」

「何じゃ?」

「クリスって、看破術とか使えたりするの?」

「それは……出来ぬ」

「そっか……」


 あわよくば、ヴァージュのステータスが分かるかと思ったんだけどね。


「お早う御座います、蓮斗さん」

「蓮斗様、皆、おっはよー!」

「おはよ、二人共」


 ヴァージュは……朝から無駄に元気が良いな。

 早々にテントを片付け、イーメの遺跡に向けて出発だ。

 山中を歩いていると、ヴァージュが途切れる事無く話し続ける。

 俺、クリス、レティシアだと、無言で歩く事が多かった。

 それから見ると、ヴァージュのお陰で、随分と雰囲気が良くなったかも知れない。

 クリスとレティシアだけだと、小競り合いが多いしね。

 問題は、日中に魔物と遭遇しても、ヴァージュは影から出て来ない、と言う事が一つ。

 もう一つは……第三者から見たら、俺とレティシアの二人だけど、剣と影も喋ってるから、周りから不思議に見えるところだろう。

 まぁ、こんな山中で人には出会わないから、不思議に見られる事は無いけどね。


「ねぇ、お母さん! あそこの人達、二人しか居ないのに、沢山の人の声が聞こえるよ!」


 なにー!! 何故、こんな所に子連れの親子が!?


「しっ! 目を合わせちゃ駄目よ……」


 俺達、恥ずかしい人になってる……じゃなくて、何故、ここにいるのか聞いてみよう。


「すみませんー」

「ひぃ……私達は何も見てません……勘弁して下さい……」


 いや、まだ何も言ってないのですが……。


「ちょっと、落ち着いて下さい」

「先程、ちゃんと納めましたので、勘弁して下さい…………うっ、うっ、うっ……」


 泣きながら訴えてくるが、何の事やら?


「お母さん、落ち着いて下さいませ。私達は敵でも魔物でも有りませんわ」

「え……本当ですか……?」


 少し落ち着いたところで、事情を聞いてみる。

 この親子は、この山の麓にある村から来たそうだ。

 最近、村に魔物が現れ、殺されたくなかったら、毎日お供え物を持ってこい、と言うものだった。


「妙じゃな」

「け、剣が……」

「あ、気にしないでね。喋る剣だから」


 親子はビックリし、目を丸くしてクリスを見ている。


「普通、魔物じゃったら交渉などせず、直ぐ殺しそうなもんじゃがの」


 確かに……何故、お供え物なんだろう?

 俺も何とも言えない、違和感を覚えた。




 人前で話す時は、気を付けよう。

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