第32話 呪いは影へと

 結局、呪われた事を引き摺りながら、出発してしまった。

 レティシアは壊れ気味だし、幸先悪いわー。


「そうですわ!」


 何だ、急に……。


「蓮斗さんの呪いを解く方法を、皆で考えましょう!」

「お主が触れないだけじゃ、何も問題無いかと思うのじゃが?」

「大問題ですわ!」


 これだけ言い合い出来れば、もう大丈夫かな?


「クリス、解呪魔法とか存在するのかな?」

「うむ、有るのは確かじゃ」

「私が絶対に見つけますわ!」

「ありがと、レティシア」

「いえ……蓮斗さんの為です……きゃ!」


 また、見えない壁に弾かれる。


「無理に触ろうとするからじゃ、発情小娘」

「何ですって!」


 また始まった……暫く、小競り合いが続いた。

 

 イーメの遺跡までは、山を六つも越えなくてはいけない。

 山歩きの為、人に依って時間の掛かり方がバラバラらしい……そりゃそうだ。

 数日後、二つ目の山を越えたくらいだろうか……ゴブリン十匹と遭遇したが、ステータス半減でも楽勝だった。

 その間、ログインボーナスに解呪アイテムを願うも、全てハズレ、最近はポーションばかりだった。

 その晩……。


「今日はこの辺で泊まろうか」

「そうですわね……」

「レティシア、大丈夫かい? 何か……やつれてない?」

「大丈夫ですわ。ちょっと充電不足で……」

「じゃ、今日は長めに寝て良いよ?」

「そうでは無いですわ! 蓮斗さんに触れないから……」


 だから、答えに困るって……。

 俺は黙々とテントを設営した。


「さぁ、飯じゃな! 蓮斗、そこの塩を取ってく…………のっ!?」


 天使ちゃんが弾かれた?


「何と! 人化すると蓮斗に触れぬのか!」


 え……俺、女の子に触れないって事?

 なんてこったい……。

 何か……レティシアが嬉しそうなのが気になる。

 食事が終わったら、ふて寝しよう。


(蓮斗様……)


「ん? 誰か呼んだ?」

「儂は何も?」

「私も呼んでませんわ」


 何だ……でも確かに声が? まぁいいか。

 今日は妙に疲れたな……もう寝よう…………。


 …………。


 ……。


「蓮斗様!」

「え……君は誰?」


 正面に居る筈なんだが、ぼやっとしていて顔がよく見えない。


「あたいは、ヴァージュ。早く此処から出してよ!」

「え? どうすれば良いの?」

「今、あたいにキスしてくれれば助かる!」


 な、な、な、なんだと!


「どうせ夢だから、良いじゃん!」

「で、でも……」

「あたいを、よーく見て……」


 ゆっくりとぼやけてた輪郭が、少しずつハッキリとしていく。

 髪はショート、赤い目をした可愛い女の子。

 見た目は、クリスよりちょっと年上だろうか。


「はーやーくー」


 どうせ夢だし……でも……。


「もう……待てないよ、あたい」


 そう言うと、俺の顔を両手で持ち上げた。

 唇には柔らかい感触が……。


 

「お早う御座います! 蓮斗さ……えぇ!!」

「ん……おはよ、どしたの?」


 夢だったのか……唇には、まだ感覚が残っている様だ。

 で、レティシア、何を驚いているんだろう。


「蓮斗さん、その子はどなたですか!?」


 うお……凄い剣幕だ……ん? 何か柔らかい物が。


「だ、誰!? あれ……夢の中の……」


 俺の腕を枕にして、女の子が寝ていた。


「おっはよー! ヴァージュだよ! よろしくねー!」

「な、な、な……」

「お、落ち着いて! レティシア!」

「何じゃ! 騒々しい!」


 もう……カオス……。

 さて、落ち着いて話し合いだ。


「えっと、先ず何処から来たのかな?」

「蓮斗様の中だよ!」


 何か……レティシアの視線が痛い。


「俺の中って、どう言う事?」

「え、あんなに熱いキッスをしたのに?」


 え、夢じゃなかったの? と言うか、今、言うそれ? 普通、言っちゃう?


「蓮斗さん!」

「蓮斗!」

「はい……」

「蓮斗様が呪いを解いてくれたんだよ!」


 ん? ちょっと待てよ……つまり?


〔ステータス回復〈呪縛・LV10〉〕


「呪いが解けてる!」

「え!! 本当ですわ! 触れますわ!」


 い、痛いです、レティシアさん。


「呪いが解けて、君が出て来たって事?」

「そう言う事になるね!」

「で、君はこれからどうするのかな?」

「蓮斗様に一生付いて行く!」

「何じゃと!」

「なんですって!」


 カオス再び……。

 更に話し合い、一緒に行動する事になった。

 駄目って言っても、付いて来るしね。

 で、このヴァージュって子、看破が効かない上に、何故かレベルとか教えてくれない。

 その代わり、特殊能力を教えてくれた。

 どうやら、俺の影の中に入れるらしい。

 日光が嫌いらしく、基本は影の中に潜るとの事だ。

 しかし、呪縛からの召還? しかも、人? 魔物? よく分からん事だらけだ。


「ライバルが増えましたわね……」


 レティシアが、ボソッと呟く……俺は聞かなかった事にする。

 こうして、一名追加で調査を開始。


「レーちゃん!」


 ヴァージュは、レティシアをレーちゃん、クリスをクーちゃんと呼ぶ事にしたらしい。


「なんですの?」

「どうやったら、そんなに大きくなるの?」

「何の事ですの?」

「バストに決まってるっしょ!」

「な!……知りませんわ!」

「ちぇっ……ケチ……」


 影と話すレティシア……シュールだな。

 

「蓮斗様!」


 げっ、矛先がコッチに……。


「その蓮斗様って、止めないかな?」

「えー……じゃあ、旦那様!」

「なんですって! 図々しいにも程がありますわ!」

「良かったの! 蓮斗!」


 うわっ……クリスさん、怒ってます?


「やっぱ、蓮斗の方にして下さい……」

「えー……良いと思ったのになぁ……」

「で、何かな?」

「今日の晩御飯なーに? あたい、暖かい物がいいー!」


 それだと、鍋が良いけど……レティシア、作ってくれるかな……。

 一か八かだ!


「俺もレティシアの鍋が食べたいなぁ……」

「そ、それって……ぷ、ぷ、プロポー……」

「落ち着くのじゃ! 発情小娘!」


 このくだり、何回聞いただろう……。


「仕方がないですわね、今夜は鍋にしますわ!」


 お……一件落着だ。

 この時、俺はまだ知らなかった……この後に起こる惨劇を。




 あ! 俺のファーストキスが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る