第24話 ターゴフの街へ

 シウオの町を出発し、ターゴフの街へ向かう。

 ターゴフの街までは、ルートが二つ有る。

 一つは街道に沿ってひたすら。こちらは約一週間は掛かるらしい。

 もう一つは、プリルイエの森を抜けて行くルート。森を抜けるだけあって、五日間位で行けるショートカットコースだ。

 俺達は、相談して後者を選択した。


「質問が有るんじゃがの?」

「な、何かな? クリス……?」


 俺、顔が引きつってるな、多分……。


「何故、その小娘は蓮斗の腕に纏わり付いているのかの?」

「あらクリス、羨ましいですの?」

「そうでは無い! 魔物に襲われたら対応が遅くなるじゃろうが!」

「ふーん……そうでしょうか?」

「ぐぬぬ……そもそも危機感が足りないのではないか!?」


 レティシアは腕を組んでくるし、クリスは不機嫌だし……胃が痛い……。

 何とか話を変えないと……。


「そういや、クリスの使う魔法って、精霊に命令する感じだよね」

「うむ。儂が使うのは、精霊魔法が多いの」

「私の〈魔法の矢〉も光の精霊魔法ですわ」

 

 何故、そこでタメを張るかなぁ……


「精霊魔法以外に、どんなのが有るのかな?」

「そうじゃの……発動が前提じゃと、魔術とか有るのう」


 魔術? 魔法と何か違うのかな?


「魔術とは、何かしらの媒体を使って発動させる、魔法の様なものですわ」


 レティシアさん、人の心を読めるのですか? でも、説明ありがと。


「媒体ってのが有れば、俺にも魔法が?」

「儀式等を理解してないと、無理かも知れませんわ……」


 あら残念……簡単に行かないか。


「じゃが、魔法の効果を有する武器や道具であれば、即座に発動可能じゃ」

「欲しい!」

「蓮斗、何を言っておるのじゃ。お主には……わ……わ……儂がおるではないか……」


 え、何? この可愛い子!


「わ、儂が魔法を使った時、第三者は蓮斗が使ったと思う筈じゃ……」

「クリス……」

「何じゃ?」

「女の子になって、もう一回同じ台詞を……」

「こ、断るのじゃ!」


 そういや、ステータスに有る〈法力〉って何だ?


「法力って何か分かる?」

「主に回復術で使用されますわね」


 え……将来覚えられたら、むっちゃ便利じゃん!

 

「身構えるのじゃ!」


 突如、クリスが叫ぶ。

 俺達はクリスに従い、武器を構えた。


「ちっ、ばれちまったか」


 声が聞こえたと同時に、前と後ろから複数の人が出てきた。格好からすると、盗賊……いや、山賊か。それにしても、ボロい革の鎧だな。


「お前ら、持っている物を全部出せ!」


 最悪だな……どうしようかと思ったその時、レティシアは一番近くにいた山賊の身体を斬りつけ、真っ赤な血飛沫が舞う。

 今までの相手は魔物だったが、今回は人間……普段の俺だったら、震えて何も出来なかっただろう。

 恐らく、スキル<罪悪感緩和>のお陰だと思うが、平常心に近い状態を保っていた。

 レティシアは、次々と山賊を斬り倒し、残り一人となった。


「残りは……貴方だけですわね?」

「ひぃっ! がっ……ぐはっ……」


 何だ? 山賊の様子がおかしい。


「どうしたのかしら……?」

 

 山賊は苦しみながら、胸を掻きむしろうとする。すると、上半身の革鎧が吹っ飛び、胸のあたりに何かが光っていた。


「魔石じゃ!」


 丁度、心臓の位置あたりに、真っ赤な輝く石が有った。

 変身した訳では無いが、禍々しい人間になった感じだ。


「殺す……殺す……殺す!」


 山賊の狂気っぷりに、流石のレティシアも怯んでいる。

 

「クリス、行くぞ!」


 俺は、スキル<縮地術>を使い、一気に間を詰めて攻撃するが……。


「うがっ!」


 腕で剣を受け流しやがった!

 何か……まずいぞ……看破で確認。


〔看破に失敗しました〕


 ここでかよ!?


「クリス、レティシア、こいつ何かヤバい」

「気持ちの悪い魔力が、滲み出ている様じゃ」

「悔しいけど、同感ですわっ!」


 レティシアさん、どうして悔しがるの?

 それは良いとして、どうしようか……。

 魔法……人間相手に?


「蓮斗! しっかりするのじゃ!」


 迷っていた俺に、クリスは一喝してくれた。


「この世界は、お主の居た世界とは道理が違うのじゃ。例え人が相手で情けを掛けても、自分が殺される場合も有るのじゃぞ?」


 その通りだ……ここは全力だ。


「クリス!火の魔法を! 俺とレティシアで相手の気を引くぞ!」

「承知じゃ!」

「分かりましたわ!」


 一気に接近して、力一杯に斬りつける。相手は先程と同じく、腕で俺の剣を受け流す。その隙を狙い、レティシアが後方から斬りつける。

 中々のコンビネーションだったと思うが、レティシアに斬られても全く怯まない。


「まるで、化け物ですわ……」

「皆、離れよ!」


 クリスの放った火炎の輪が、相手を縛り付けて勢い良く燃える。

 だが、炎の中で必死に耐えようとする姿が見える。


「まだですわっ! 剣技、廻陣炎舞!」


 レティシアは、容赦なく剣技を叩き込むが、まだ倒れない。

 どう言う事だ? 魔石の力が有るとは言え、元は人間の筈なのに……。

 ん? 魔石か!


「レティシア! ちょっと戻って!」

「どうしましたの?」


 相手に聞かれるのも嫌だったので、レティシアに耳打ちする。


「俺が攻撃をして気をそらすから、レティシアは、その間に胸の魔石を壊してくれ」


 ん? あれ? 返事がない……。


「レティシア?」

「……私……」

「ん? 何かな?」

「私、耳が弱いんです……」


 えー……。


「しかも、蓮斗さんが……はぅ……」


 はぅ……って、これヤバいんじゃない?


「小娘、儂と蓮斗を殺す気かの?」

「そ、そうでしたわ! お任せください!」

 

 クリスのお陰で助かったわ。

 先ずは俺が攻撃……必殺、スタミナの限り連続斬り!

 連続で斬りつけながら、身体の軸を少し横にずらす。レティシアに魔石を狙わせる為だ。

 

「はっ!」


 レティシアの一撃が、魔石に直撃して砕け散った。


「ぐぉぉっ……」


 魔石が砕けるのと同時に身体ごと消滅した。


「消えたの……」

「消えましたわね……」


 気が付くと、最初に倒した筈の山賊達まで消えていた。


「訳が分からないな……」

「まったくじゃ……」

「す、進みましょうか……」


 何か遣り切れないが、そのまま進む事にした。




 一体、何だったんだ?

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