第6話 知識を有する武具

 町長はクリスを見つめると、話を始めた。


「先ずは、お名前を教えて頂いても?」

「はい、俺は蓮斗と言います。そして、この剣は……」

「クリスじゃ」

「蓮斗殿とクリス殿ですか。私はこのシウオの町長を務めているファイマンと申します」

「宜しくお願いします」

「こちらこそ」


 クリスは何も言わない。いつも必要最低限の事しか話さないけど、ここまでくると凄いな。


「それでは、共通の言い伝えの事をお話ししましょうか」

「お願いします」


「まずはクリス殿、貴方も転移されて此方へ?」

「うむ、その通りじゃ」

「それ以前の事を、どこまで覚えていますか?」

「儂の知識から推測するに、この世界の何処からか転移された、と思っておるが?」


 何故、町長がそんな質問をしたのか分からないが、クリスが意外と真っ当に答えているのに驚いてしまった。


「なるほど、思った通りでしたので、ほぼ確信に変わりました」

「どういう事じゃ?」

「私の聞いた、言い伝えの話になりますが、断片的なものになります。一つ一つお教え致します」


 そこから、一つずつ教えて貰った。


 まず、この世界に歪みが出現した時、転移者が現れる。

 歪みとは何か、正確には分からない。

 人の敵となる存在である事は確か。

 転移者は全部で八名出現する。

 転移者の一部は人の敵になる。

 今までの転移者の場合、剣と杖は人の味方であった。

 それぞれの転移者は選択を迫られるが、その内容は各々違う。

 選択の意味については不明。

 知識を有する武具が、この世界より一つ選ばれ、転移者に与えられる。

 その知識を有する武具は、人より転生した後、記憶を一部消される。

 歪みが消えた時、つまり人の敵が滅びた時、転移者は再び選択を迫られるが、結果は分からない。

 

 ま、こんなところらしい。

 転移そのものが、歪みかも知れない。


 町長は更に話を続けた。


「歪みが消えた時に、転移者と武具が消えた例も有るそうです」

「て、事は?」


 俺は前のめりで、聞き返した。


「お察しの通り、転移者は元の世界にもどり、武具も人に戻っているかも知れません。あくまで推測ですが……」


 おぉ! 帰る希望が見えてきた!


「その話じゃと、儂は人であったと言う事になるのかの?」

「そうなります」

「根拠は有るのかの?」

「はい……」


 そう言うと町長は、足元にあった小さな箱をテーブルの上に置いた。


「こちらです」


 町長は箱を開き、俺達に中の物を見せた。

 綺麗に輝く、透き通った緑色の石……これってエメラルド?


「綺麗ですね」

「そうでしょう」

「これが何なのじゃ?」

「この石を武具が飲み込むと、一時的に前世の姿に戻れる能力を得られる魔石です」

「なんじゃと!」


 全く動けない剣の筈なのに、前のめりになっている感じがする……感じだけね。


「その際、少しだけ記憶が戻るとの言い伝えですが、私自身は転移者の方々を見るのも初めてでして……やってみますか?」


 ん、クリスの返事が無い……考え中なのかな?

 返事が無いので、町長がもう一度問う。


「如何されますか?」

「試そう……」


 お、クリス前向き!

 

「では蓮斗殿、クリス殿にこの魔石を……」

「はい……」

「頼んだぞ、蓮斗……」


 魔石をクリスの上に置いた瞬間、魔石は沈む様にクリスに吸収された。


「なんと! そうか……儂がのう……」

「クリス?」

「なんじゃ、蓮斗?」

「いや……何ともない?」

「問題ない……転生前の記憶が少し戻り、能力が増えた」

「おぉ! 因みにどんな能力?」

「回帰術LV1じゃ」


 成功なのか?

 使ってみるようクリスに言ってみると、意外にもあっさりと了承してくれた。


「いくぞ!」


 おー、何だか頼もしいな。

 などと思っていると、クリスが緑色の光に包まれ、それは激しい光へと変わっていく。


「眩しっ! 何も見えない!」


 すると、徐々に光は消えていく。

 光が消えていくと同時に、人の形をした影が現れる……。

 

「戻った!」


 クリスの一声が聞こえた。

 そこには一人の可愛らしい女の子が……って裸!?


「こちらを見るな! 愚か者!」

「ご、ごめん!」


 俺は驚き、すぐ後ろ向いた。


「貴様もじゃ! 町長!」

「も、申し訳ない!」


 これ、いつまで後ろを向いていれば良いんだ……と、思っていると、ビリビリと何かを破る音が聞こえた。


「もう良いぞ」


 振り向くと布を巻いた女の子が立っていた。


「ク、クリスなのか?」

「そうじゃが? 声を忘れたのか?」


 間違いなく、クリスの声だ。


「お二方、成功ですな!」


 町長は、むっちゃ喜んでるし……。


「町長、カーテンを拝借した。すまぬな」

「いえいえ、大丈夫です。それより、お話しを続けましょう」

「はい」

「うむ」

 

 そう答えると、俺達は再び席に着いた。




 それにしてもクリスってば、こんなに可愛かったんだ……。

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