第4話 先立つもの

「ふぁー良く寝た……」

「起きたか、蓮斗」

「あぁ、おはようクリス」

「うむ」


 おはようの返しが、うむって……


「今日はどうするのじゃ?」

「うん、思ったんだけど……」

「なんじゃ?」

「お金無い……」

「じゃの」

「じゃの……じゃない! このままだと、いつ野垂れ死ぬか、わかったもんじゃない!」

「そうじゃな」


 うわー、危機感0だなー。


「俺が死んだら、クリスも死ぬんじゃないの?」

「働け!」

「現金な奴……」


 とは言え、稼ぐ手段を見つけないと本当にマズイかも……


「そういや、この世界の通貨は何なの?」

「硬貨じゃ」

「金貨とか銀貨って感じの?」

「そうじゃな」

「クリスは、幾らくらいで売れるの?」

「なんじゃと!」

「冗談だよ……答えが単調だったから、ちゃんと話を聞いてるかなぁと思って……」

「余計な事をしなくてよい!」

「ごめんってば……」


 何にせよ、お金を稼がなくては……。


「剣士様、お目覚めでしょうか? 朝食が出来ましたので、お持ち致しました」

「あ、ありがとうございます!」


 そう答えると、女性が食事を運び入れてくれた。

 ちょうど良い、この辺の情報を聞いておいて損はないよね?


「あの、すみません。この付近の事を教えて貰っても良いですか?」

「はい、何なりと」


 少し、この村の状況を教えて貰った。

 この村の名前は、ヒオジツ村と言う名前だそうだ。

 昨日のようにゴブリンが襲ってくるって事は、今まで一度も無かったらしい。

 隣町のシウオの町に属する村で、通常は数日に一回、町から衛兵が見回りにくるそうだ。

 今回の一件で危機感を覚えた村長は、見回りの回数を増やして貰う嘆願をしに出掛けたとの事だ。


「シウオの町は、どちらに有るんですか?」

「この村より北の方角、数時間ほど歩いた場所になります」

「ありがとうございます」


 町の方が仕事が有るよね……。


「クリス、町に行こうか?」

「どうせ儂は、蓮斗に連れられるしかないのじゃから、好きにするが良い」


 うわっ、さっきの根に持ってる……と言うか、いじけてる?


「ごめんって。機嫌直して行こ?」

「ふん、良いじゃろう……」


 あれ? うちの相棒、面倒臭いタイプ?

 ま、いいや。 それよりステータスボードがずっと点滅してたんだよね。


〔日課特典:先立つもの〕


「へ?」

「どうしたのじゃ?」

「いや、また日課特典が」

「お主、日課になるような事は何もしていないじゃろうが?」

「うん……」


 一先ず、貰えるものは貰っておこう。


〔先立つものを取得しました〕


 ゴトンと音をたて、手のひらサイズの箱が地面に現れた。

 すぐ箱を確認、開けようとしたが開かない……


「んー鍵かな?……」

「残念じゃったな」

「ま、仕方ないか。取り敢えず魔袋に入れておくわ……」


 でも、何もしていないのに、日課特典なんて貰えるんだ?

 …………!


「わかった!」

「何がじゃ?」

「日課特典だよ!」

「ほう……で、何なのじゃ?」

「ログインボーナスだ! 遂にチートっぽいのキター!」

「ろぐん…………なんじゃと?」

「日替わりで貰えるサービスさ!」

「ほ、ほぅ……それは良かったのう……?」


 訳がわからないクリスを尻目に、思わず小躍りしてしまった。

 ま、箱は開かないんだけどね。

 毎日何かが貰えれば、いずれ役立つアイテムも手に入るかも知れないからね!

 まさかとは思うけど、明日何も貰えないパターンは無いよね……?

 その時は、その時に落ち込もう。


「よし、クリス! 出発だ!」

「そんなに嬉しいものかのう? 暗いよりは全然良いのじゃが」

「嬉しいに決まってるさ!」

「……別人のようじゃ……」


 俺達は村の方々に一泊のお礼を済ませ、北の町シウオに向けて出発した。

 村長が普通に向かえるのなら、魔物は居ないって事かな。

 まぁ数時間で着くらしいし、気にする事でもないか…………フラグじゃないぞ、多分。

 

 それから、三十分ほど歩いただろうか……


「……この前も思ったんだけど……」

「なんじゃ?」

「クリスさんから、話し掛ける事はあまり無いよね……」

「必要な時に話し掛けているじゃろ?」

「そうなんだけど……何かさ、世間話とか無いのかなーって……」

「そうじゃな……」


 おっ、珍しく素直だ!

 でも、クリスに世間話とか出来るのかな?


「…………」

「……」


 数分間、沈黙だったかな? って、おいっ!


「俺が悪かったよ。そうだ、お金の話を教えて貰おうかな?」

「守銭奴なのかの……」


 こいつ……本当に怒るぞ。

 怒っても仕方ないので、話を続けよう……落ち着け、俺。


「硬貨は何種類有るの?」

「硬貨はの、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の五種類じゃ。それより上は、主に宝石類での取り引きが一般的じゃが、鑑定能力が無いと価値がわからぬ。そもそも一般人は宝石など持てぬのが現状じゃ」

「んと、それぞれの硬貨の価値は?」

「ふむ、鉄貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚という風に、次の価値への硬貨の必要枚数は十倍じゃ」

「なるほど……ありがとう!」

「うむ」


 説明の時だけ、会話が続くな……。


「あ……」

「む、ゴブリンじゃな」


 道端にゴブリンがいた。何故か一匹だけ。

 はい、フラグ回収!


「蓮斗、彼奴を仕留めるのじゃ!」

「逃げられると仲間を呼ばれるからだね!」

「わかっておるの!」


 ゴブリンに走って近付き、大きく振りかぶり斬りかかる!


「肩痛ってぇー!」


 肩が痛いの忘れてました……。

 そもそも、こちらから斬りかかる癖が無いから、剣を上げ過ぎたのね……。

 それでも剣先がゴブリンに当たり、腕を負傷させたようだ。

 ゴブリンは逆上し、こちらに短剣を投げつけてくる。

 投げつけられた短剣は、俺の腕をかすめた。

 HPバーが少し減る。


「痛っ、この!」


 間合いを詰め、再度、斬りかかる。

 今度はゴブリンをしっかりと捉え、致命傷を与えた。


「ふぅ……」

「板についてきたの」

「ありがとさんよ……あれ? この短剣貰っても良いかな?」

「戦利品じゃ、良いと思うぞ」

「うん……ちょっと休憩ね」

「うむ」


 ついでにステータスボードの確認と……


〔経験値を獲得しました〕

〔短剣(?)を獲得しました〕

〔先立つもの+1〕

 

 何だ? 先立つもの+1って?

 魔袋から先立つものの箱を取り出した。

 

「どうしたのじゃ?」

「いや、ログに記載があったから……」


 箱を開ける……開いた! すると、硬貨が一枚入っていた。 


「おぉ! 凄いぞ! 先立つ箱!」

「なんじゃ、それは?」

「先立つもの、の箱だから、先立つ箱」

「……」


 ゲームではモンスターを倒すと、お金が手に入る。

 この世界じゃ無理だと思っていたけど、この箱なら手に入る!

 偉いぞ、先立つ箱ちゃん!


「幾ら入っていたのじゃ?」


〔鉄貨一枚を獲得しました〕


「鉄貨一枚……」

「……くくっ…………」


 またかよっ! 本当に堪える気があるのかよ! 笑いがだだ漏れなんだよ!


「近いとはいえ、早く行かぬと日が暮れると思うのじゃが?」

「わかってるよ!」

「怒りっぽいのー」

「誰のせいだよ!」




 本当、空気が読めない剣だな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る