第3話 旅立ちと戦闘

 その後、称号やレベルについての補足を確認したのだが、何もわからなかった。


「まずは、何処に行こうか」

「人のいる場所を目指すのはどうじゃろ?」

「そうだな。お腹も空いてきたし」


 とはいえ、俺もクリスも何処に人がいるかは予想もつかない。

 さて、どうしたものか……


「適当に歩こう」

「そうじゃな……」


 で、適当に歩いたんだけど、これが大失敗。

 恐らく時間にして、五、六時間は何もない草原や林の中を歩く事になる。


「疲れたー! 腹減ったー!」

「うるさいのう……」


 精魂尽きそうな時だった。


「蓮斗! 煙が見えるぞ!」

「どこ!?」

「あそこじゃ!」


 あそこじゃ! って言ったって、剣は動かないから方向がわからん。

 くるっと見渡すと、確かに煙が昇っている場所がある。


「あそこに向かってみよう」

「うむ」


 俺はクリスを携え、煙の元へ向かい歩き出したのだが……


「ぜぇぜぇ……」

「だらしないのう」

「お前は歩いてないだろ! てか遠い……」

「もう六時間程歩いておるの」

「そうか、そんなに歩いていたかー」


 ん? 時間の単位や長さは同じなのか?

 今更だけど、言葉も通じているのも不思議だ。

 ステータスボードの文字も日本語だし。


「クリス、一時間は六十分?」

「当たり前であろう」


 やっぱり……日本と同じと考えて大丈夫そうだ。

 でも、何か馬鹿にされた気がする。


「止まるのじゃ!」


 突然、クリスに叫ばれ立ち止まる。


「あれは……」


 まだ離れてはいるが、煙の元で人らしきものが争っているような影が見えた。


「なんだろ……」

「あれは、人が魔物に襲われているの」


 すげぇ、剣は目が良いんだな。


「え! どうしよう……」

「同胞なら助けぬのか? 儂はどちらでも良いがの」

「助けるって、どうやって?」

「質問ばかりじゃな。もう少し自発的に考えて動けぬのか?」

「この世界では初心者なんで……」

「……まぁよい。儂という、素晴らしい剣があるじゃろう?」

「えーまた乗っ取られるの?」

「お主が儂を持って、自分で戦えば良かろう」

「急にハードルが上がった……俺、レベル0だよ? 死なない?」

「いざとなれば、儂が何とかする! 行け! 腰抜け!」


 くっ……悔しいけど、正論で何も言えないわ。

 ま、いざとなれば助けてくれるって言うし、レベル上げにもってこいか。

 でも、昨日まで喧嘩もした事が無い、普通の高校生の俺に出来るだろうか。


「早うせんか! 全滅するぞ!」

「わかったよ!」


 急いで煙の元に向かう。

 肉眼で確認出来る所まで近付くと、ちょうど一人の男が魔物に背中を刺され、崩れ落ちるように倒れるところだった。

 

「うわっ……」


 思わず声を出してしまった。

 当然、魔物に気付かれた……やっちまったー。

 でもこの魔物、俺より小さい! 

 あれ? この姿って……


「まるでゴブリンみたいだ」

「何を言っておる、ゴブリンじゃ」

「え? これはゴブリンで合ってるんだ……」

「早う構えるのじゃ!」


 俺が身構えようとすると、ゴブリンは短剣を振りかざしながら俺に向かってきた。


「儂で受け流すのじゃ!」


 ん? 出来れば苦労ないよね? 俺はゴブリンの攻撃を横っ飛びで避けた。


「あぶねー」

「何故、避けたのじゃ? 受け流して攻撃じゃろ?」

「いや、出来ないわ!」

「では、避けたのなら、何故すぐに攻撃せんのじゃ?」


 答える暇も無く、再度、ゴブリンは俺に向かってくる。

 にしても、無茶を言う剣だ……俺は素人だっつうの!


「うわっ、来たー!」

「仕方ないのう……」

「乗っ取り!?」

「……クリスの名に於いて命ず、我を取り巻く風の精霊よ、我に対峙するものの瞬く時を我に与えん……」


 クリスがぶつぶつと何かを唱えると、ゴブリンの動きが水中にいるかのように遅くなった。


「え? 何これ、魔法?」

「蓮斗今じゃ! 斬れ!」


 俺はゴブリンの左肩から斜めに斬りつきた。

 何の抵抗もなく、剣が肉体を傷付ける。

 斬りつけた傷からは、紫色の血の様なものが吹き出し、ゴブリンは絶叫しながら倒れた。

 手には斬りつけた時の感覚が残り、何とも…………気持ちわるっ! 


「はぁ、はぁ……」

「休んでいる暇は無い、次じゃ!」

「くっ!」


 気合いを入れて走りだし、こちらに背を向けている二匹のゴブリンを連続で斬りつけて倒した。

 二匹のゴブリンは叫び、恨めしそうにこちらを見ながら倒れた。


「あと二匹じゃ!」


 二匹のゴブリンを倒した後、それに気付いたもう二匹のゴブリンが俺に襲い掛かる。

 一匹目の攻撃を避け、もう一匹の短剣を自分の剣で受け流し、そのまま斬りつけた。

 

「出来た!」

「うむ、意外とやれば出来るのじゃな。それ、もう一匹じゃ」 


 最後の一匹は、今の攻撃を見て警戒しているようだった。


「何か、今なら誰にも負けない気がする!」

「うむ、それは気のせいじゃ」


 えー……そこは肯定してよー。


「じゃが、良い顔になってきたの」

「え? そう?」


 なんて、呑気に話していたら不意をつこうとするよね。

 案の定、ゴブリンはこちらに向かって走りだし、短剣を振りかざしてきたが、また剣で受け流して斬りつける。

 断末魔の叫び……ゴブリンは血を吹き出しながら倒れていった。


「た、倒したー!」

「うむ」


 この前の乗っ取りは別として、生き物を殺すなんて初めてだ。

 あれ? HPゲージが半分だ! 今回、一発も食らってないよね?


「ありがとうございます……うっ、うっ……」


 HPを気にしていたら、現地の生き残りの人間に涙ながらに礼を言われた。

 そうだ、この人達を助けたんだ。

 そして、奥から老人がゆっくりと歩み寄ってきた。


「ありがとうございます、剣士様」

「いえいえ、偶然通り掛かっただけで……」

「…………くくっ……」


 クリスの奴、また笑いを堪えているな……


「もうすぐ日が暮れます。今夜は私達の村で泊まれていかれては如何ですかな? 粗末ではありますが、お食事と寝床を用意させて頂きますので」


 やった、ラッキー! なんてったって無一文だから助かるわー。


「是非とも、宜しくお願い致します!」

「では、こちらへ……」


 そう言うと、テントの様な所に案内され、食事と布団を戴いた。


「ふぅ、腹一杯! 生き返ったわー」

「人間は不便だのう」

「食べてもHPは回復しないんだね」

「じゃろうな」

「冷たいなぁ……今のうちにステータスでも確認するか……」


〔名前:蓮斗 種族:人〕

〔レベル:1〕

〔魔法:なし〕

〔スキル:パリイ=LV1〕

〔スキル:罪悪感緩和〕

〔熟練度:剣技=LV1〕


「おぉ! レベルが上がってる!」

「それは良かったの」

 

 その後、ログを確認すると、一匹目を倒した直後にレベルが上がった為、知らない間に少し強くなっていたらしい。

 攻撃力も恐らく上がっているだろう……閲覧出来ないけど。

 その時にHPの最大値が上がったが、元々のHPが回復しない為、減ったように見えたって事のようだ。

 更にスキル、罪悪感緩和ってのが付いて、生き物を殺しても動揺しないみたい。

 大義名分が無いと駄目らしいけど、今回は村民を助ける、と言う理由があったから大丈夫だったのかな?


 今日は本当に疲れたから、もう寝よう……

 おやすみなさい……

 



「儂は寝る必要が無いけどのっ!」

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