第2話 夢から覚めて

 チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえ、気持ち良く目が覚める。

 目覚まし時計が鳴る前に起きるなんて、とても久しぶりの事だ。

 ん、肩が痛い……寝違えたか?


「やっとお目覚めか、蓮斗よ」

「ああ。おはよ…………うっ!?」

「何を驚いているのじゃ?」


 家族かと思った声の主は剣でした……まじかー。

 やっぱり現実と認めざるを得ない。

 夢の中でこんなに肩が痛くなるとは思えないし、一つ一つの感覚がリアルなんだよなぁ。

 つまり、俺は異世界に転移したって事になる。

 

「なんじゃ? 黙りこんで」

「嬉しさと悲しさに浸っているんだよ」

「よくわからん奴じゃのう」

「クリスは何処から転移したか、覚えているの?」

「……」

「何かごめん……」

「気にせずとも良い」


 少しだけ、ばつが悪い思いをした。本当に少しだけね。

 それより、今は自分の状況確認が優先だ。


「よし! こうなったら、現状をとことん調べるわ!」

「そうじゃな。まずは窓の確認じゃ」


 まるでチュートリアルの人……いや剣か。

 一先ず、窓を開くか。

 ん、良く見たらステータスボードって書いてあるじゃん……何が窓だよ。

 それは置いといて、何から見ようかな?


〔基本ステータス〕


 やっぱりコレかな、転移とか転生には何かしらのチート能力が備わっているのを期待してしまうよね? だってゲームっぽいもの。


〔名前:蓮斗 種族:人〕

〔レベル:0〕


「ちょっ、ちょっと待ったー!」

「どうしたのじゃ!」

「レベル0って……」

「…………くっ……くっ……」


 クリスの奴、あからさまに笑いを堪えてるわ、ムカつくわー。

 しかし、この際レベルなんてどうでも良い、さて、能力値は……


〔能力値:閲覧権限がありません〕


 …………えー。

 自分の能力値が見れないのかよ。

 んじゃ、あと何が見れるんだろ?

 お、魔法とスキルとか見れる! どれどれ……


〔魔法:なし〕

〔スキル:なし〕


 …………おぃおぃ。


〔称号:転移せし者〕


 ……それは知ってる……それだけ? お、こっちはどうだ……


〔熟練度:剣技=LV0〕


 ぐはっ…………もうチートとかの前に一般人、それ以下かも……ん?


〔転移特典:知識剣との絆〕

〔転移特典:平和選択ボーナス〕

〔転移特典:体力値視覚化〕

〔日課特典:収納魔袋〕


 うん、さっぱりわからん。

 この場合は、聞くのが一番だな。


「クリス! 知識剣との絆ってなんだ?」

「む、まさか儂との絆じゃなかろうな?」

「知識剣って何? 絆って何? どうしたの?」

「矢継ぎ早にうるさいのう……一つ一つ説明してやろう」


 質問を質問で返したくせに。

 そして何故か偉そうなんだよなぁ。

 

「まず、知識剣とは儂のように知識が有り、会話が出来る剣の事じゃ。インテリジェンスソードとも呼ばれておる」

「インテリジェンスソードの方が格好良いな」

「儂は言い難いので好かぬ」

「そうかなぁ?」

「まぁよい。次に知識剣との絆とは、剣を扱う者が特定の知識剣の所有者として契約し、互いに切っても切れぬ仲になると言う事じゃ」

「えっと……具体的には?」

「そうじゃのう……命が共有されるのう……」

「そうなんだ…………えっ!?」

「所有者が死ねば剣は破壊され、剣が破壊される様な事があれば所有者は死ぬのじゃ」


 え? どういう事? チートどころかマイナス要素じゃない? 


「ぬ……やはり蓮斗の絆の相手は儂じゃ……」

「え? どうしてわかったの?」

「儂の窓から確認したのじゃ。儂は意識の中で確認できるからの。お主も意識を集中すれば、見えるはずじゃ」


 お前もステータス見れたのかよ。

 まぁいいや、知識剣との絆と記載された所に意識を向けよう……ん、別な文章が出てきた。


〔知識剣との絆:クリス〕


「て事は、クリスと一蓮托生って事?」

「不本意じゃが、そうなるの」


 こっちもだよ! って言いたかったけど無視して次いこう。

 さっきの要領でいくと、意識を集中すれば内容が分かるって事だな。

 んじゃ、平和選択ボーナスは……


〔平和選択ボーナス:閲覧権限がありません〕


 なるほど、バグだな。

 おかしいでしょ、こんなに見れないものだらけって。次いこう。


〔体力値視覚化します〕


 お、視界の左上に赤いバーが出てきた。

 これはHPバーだな……一番右に35?

 HPが35って事かな。


「なぁクリス、お前のHPは幾つなの?」

「答える義務はないと思うのじゃが?」

「一蓮托生なんだから、それくらい教えてよ」

「まぁよいわ、5000くらいじゃ」

「高っ!」

 

 ちょっとへこんだけど、剣だから丈夫じゃなきゃ駄目だよね、次、次。


〔収納魔袋を取得しました〕


 すると目の前に茶色い袋が現れ、地面にポタッと落ちた。

 両手を広げた程のサイズで腰に身に付ける事が出来た。


「そいつは収納魔袋じゃな」

「そうなの? 何か特別なの?」

「口より小さな物であれば、相当な量を収納出来るはずじゃ。何より燃えぬが良い 」

「へー便利だね。でも日課特典ってなんだろ?」

「わからぬ」

「あ、そう……」


 本日、分かった事。

 レベルが0で能力値は不明。

 チート要素も皆無。

 どうやらこの世界では、クリスと共に行動しなくてはいけないと言う事。

 こんな事でやっていけるのか?


「絆のせいで、一緒に行動しないと駄目って事で合ってるかな?」

「そのようじゃの」

「じゃ、お互いの目的を確認しない?」

「よいじゃろう」

「俺は元の世界に帰って、普通の生活をしたい」

「ふむ。弱いからかの?」

「ちがうわ!」


 とは言ったものの、弱くてチートが無いってのも理由の一つである事は確かだ。

 クリスには絶対言わないけどね!


「クリスは何か目的は無いの?」

「儂は……儂は欠落した記憶を取り戻したいのう」

「そうか……」

「いちいち暗い顔せんで良いぞ?」

「あぁ、分かっているよ」


 そうだ。クリスは記憶喪失っぽいのだった。

 目的は違うが、一緒に旅に出て何かしらの解決が出来れば御の字だろう。


「ま、そんな事で宜しく頼むよ、相棒」

「唐突だの。仕方ない、儂に見合うように強くなる事じゃな」

「わかったよ!」

「怒りっぽいのう。その性格、直した方が良いと思うのじゃが?」

「……善処するわ……」

「良い心懸けじゃ」


 本当、一言多い剣だな。

 でもコイツとは一蓮托生……一生とまではいかなくても、長い間付き合う事になりそうだ。

 



 そういや、肩の痛みはステータス異常にならないんだな。

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