第1話 初戦闘

 その後の会話で、クリスは思念と言う能力を使い、周囲を映像化して見えている事がわかった。

 能力って、ゲームかよ……

 

「ところで、クリスは何処から来たの?」

「…………」

「あの……聞いてる?」

「聞こえておる……」


 暫く沈黙が続き、声を発しないクリスを見て、諦めようとした……その時――


「思い出せぬ……」

「え? 名前はわかっているのに?」

「うむ……」

「じゃあ、生い立ちとかは?」

「部分的に覚えているようじゃ……」

「例えば?」


 また、沈黙が始まった為、少し気の毒に感じてしまった。

 人間の記憶喪失と同じだよね、多分……


「思い出したら教えくれよ」

「すまぬな、蓮斗」

「問題なしだよ」


 あれ? いつの間にか仲良く会話している感じだな。

 第三者が見たら、変人扱いを受けそうだ。

 そうこうしている間に雨が上がり、太陽の光が辺りを照りつけ、空には虹が架かっていた。


「やっと晴れたなぁ」

「うむ。しかし、招かれざる客が……」


 そうクリスに言われ周囲を見渡すと、一匹の獣がゆっくりとこちらに向かっていた。

 

「あれは……猪?」

「猪とはなんじゃ? それより彼奴、儂らに敵対心を抱いておるぞ」

「なんでわかるの?」

「儂は多彩な能力を持っているからの!」

「そ、そうなんだ……取り敢えず、逃げなきゃ!」


 そう言い放つと、クリスを掴みつつ走って逃げ出した。

 その様子を見た獣は、直ぐ様追いかけてきた。

 獣に走って勝てる人間は……あまり居ないよね……


「追いつかれる!」

「蓮斗、少し体を借りるぞ!」

「え?」


 疑問に思った瞬間、体の自由を奪われてしまった。

 単純に体だけ。

 視覚や聴覚はそのまま残っている。

 機能している視覚情報からは、恐らく右手に剣を構えて獣と対峙している自分、という最悪の状況であった。


(なんだよこれ!)


 声がでない。

 ただ見えて聞こえるだけだ。

 視界から剣が消えたかと思うと、剣が上から下に通過したのが見えた。

 どうやら獣に斬りつけたらしい。

 ん? 触覚もないのか。

 斬りつけられた獣は、赤い血を吹き出しながら倒れこんだ。


「解除する」


 クリスの声が聞こえると、全ての感覚が戻ってきた。

 軽い痛覚と一緒に。


「痛っ……クリス、何をしたんだ!?」

「体を借りたのじゃ」

「それはわかってるよ! どうしてこうなったか聞いてるの!」

「あのままじゃと殺されるじゃろ? じゃから儂の能力でお主に憑依して、倒してやったのじゃ。感謝せよ。わっはっはっ!」

「説明ありがとよ!」

「なにを怒っておるのじゃ……」


 いきなり体を乗っ取られて殺生するなんて、高校生にはトラウマにしかならないわ。

 おまけに剣を振ったせいか、肩と腕が痛い……

 肩の違和感を取ろうとして、首をゆっくり回して空を見上げると、視界の端……右上の方で赤い点が点滅しているのが見えた。

 なにかと思い、視線をそちらに動かす。

 すると、同じ方向に赤い点も動いていた。

 つまり、必ず右上に赤い点が存在している状況になっていた。

 なんなんだこれは……


「クリス、空にいる赤い飛翔体はなんだろか?」

「む、その様な物は見えぬが?」

「え、じゃあなんだ? 幽霊……とは違うな」

「恐らく窓じゃな」

「窓? なにそれ?」

「赤い点に意識を集中するのじゃ」

「ん……」


 俺はクリスに言われた通り、赤い点に意識を向けた。

 すると目の前に、限りなく透明に近い板が現れた。


「なんだこれは!」

「それが窓じゃ」


 透明な板には文章が色々と書かれていた。


「最後の文書は、経験値を獲得、か」

「文章を下に移動する様に意識するのじゃ」

「やってみるわ」


 言われた通り意識すると、文章が下がり過去と思われる文章が次々と出てきた。

 これは所謂過去ログか、ますますゲームだな。

 一番最初まで戻り、文章を確認してみる。

 記載された内容は、こんな感じだ。

 

〔選択の間に転移しました〕

〔平和を選択しました〕

〔平和の選択が受理されました〕

〔セディア大陸に転移しました〕

〔ステータス異常〈憑依〉〕

〔ドルンを倒しました〕

〔ステータス回復〈憑依〉〕

〔経験値を獲得しました〕


 随分簡単な説明だな。

 ゲームだったら、○○が現れた! とか、○○の攻撃! とか書いて有りそうなものだけど……全く無い。

 ドルンってのは、さっきの猪か。

 ダメージや経験値の数値も無い。

 ゲームとしては、微妙なクオリティだと思う。

 それより気になるのは転移って文字。


「俺、転移してきた事になってる」

「そうじゃろうな」

「え……」

「恐らく儂も転移してきたと思うのう……」

「あ、そう……」


 もう訳がわからん。

 ん? 透明な板にまた何かでた。


〔ステータス異常〈混乱・LV0〉〕


 うるさいよ!

 

「うわっ日が暮れてきた。寝床を探さないと駄目か」

「先程の木の下で寝れば良かろう? 雨は凌げるであろう?」

「また襲われたら……まあいいや」


 そうだ。どうせ寝て起きたら、現実に戻されて顧問の先生に追いかけられるんだ。

 先程の木まで戻り、頭の後ろに手を当て横になる。

 長かった夢も此処まで。

 疲れたから、すぐ寝れそ……

 そう思いながら、すぐに就寝してしまった。




〔ステータス回復〈混乱・LV0〉〕

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る