相棒は知識剣《インテリジェンスソード》

睡蓮こたつ

第0話 夢の中で

 剣が語りかけてきた。剣が……だ……


 目を覚ますと突然目の前に剣が現れ、語りかけてきたのだ。


『選べ……』


 何を? とは思ったのだが、ここが夢の中なのか、或いはまだ寝惚けているのかと、色々と考えているうちに剣は続けて話しかけてきた。


『滅亡か、平和か?』


「いきなり質問されても、意味が――」


 言葉を遮り、剣は怒号のように叫んだ。


『選べ!』


 何と言う理不尽……と言うか意味が全然わからない。

 俺は基本的に平和主義者だと思うが、滅亡って何だ?

 世界の話か……?


 困惑していた俺に、再度、剣は問いかけてきた。


『最後の問いだ。答えねば消す。選べ!』


「平和で!」


 消すと言われて焦った俺は、即答してしまった。

 だって、消すって穏やかじゃないし……


『受理した』


 その言葉を聞いた直後、俺は気を失ってしまった。


 どのくらいの時間が経ったのだろうか……

 俺は目を覚まし、周囲を確認した。

 見渡す限り草原、ここは草原のど真ん中、という感じだろうか……

 まだ夢の中かと思わせるその風景を見て、呆気にとられていた。


「おい!」


 ん? 誰もいないのに声が?

 さっきは剣に話しかけられる夢を見たばかりだというのに……


「こちらを見ろ!」


 俺は声の聞こえる方を見て愕然とした。

 一振りの剣が落ちていたのだ。

 しかも夢で見た剣とほぼ同じ。

 柄は緑色に光沢があり、剣身は綺麗な銀色だが、光の反射で少し赤みを帯びていた。

 長さは黒板に使う定規くらいであろうか……などと思いつつ、剣に向かって答えた。


「こんにちは……って剣に話しかけるなんて、俺もどうかしてるな……ははっ……」

「笑い事ではない! ここは何処じゃ!」


 剣は答えてくるし、逆に質問かよ。どうなってるんだ……


「ちょっと待ってくれ、俺も状況がわからないんだ。だいたい、お前は何者なんだ?」

「剣じゃが?」

「そんなのわかってるよ……」

「なら聞くではない。それよりここは何処で、お主こそ何者じゃ?」

「こいつ、なめてるのか……」

 

 少しばかり納得がいかなかったが、正直に名乗る事にした。


「俺の名は、蓮斗れんとだ。ここが何処なのかは知らない。ところで、お前には名前があるのか?」


 また、剣だとか言われたら腹が立つので、名前があるか聞いてみた。


「クリスじゃ」

「有ったんだ、名前……」

「は? 聞いておきながら失礼な奴じゃな!」


 まぁ……何を言われても怒鳴られても、地面から動く素振りが無いので怖くない。


「蓮斗とやら、お主はどうやって此処にきたのじゃ?」


 クリスは落ち着いたのか、穏やかな声で質問を投げかけてきた。

 状況が不明過ぎるので、これまでの経緯を真面目に話すことにした……


 

 そもそもだが……俺は十七歳で高校二年生だ。

 学校では陸上部に所属しているのだが、どの種目も秀でた記録を出せず、段々と億劫になり幽霊部員と化していた。

 そんな中、放課後の校内で陸上部の顧問に出くわした。

 部活に来い! と怒って追いかけてくるので逃走したのだが、あまりにもしつこいので校庭へ脱走。

 校庭の隅にある祠の様な物陰に隠れようとした時、不覚にも足を滑らせて転倒したところまでは覚えている。

 あ、頭を打ったかも知れない……で、起きたらクリスに選択を迫られた感じだ。

 夢のわりに記憶力が続くな、と思いながらクリスに説明したのだが……


「待て、儂はお主に選択など迫っておらぬぞ」

「え……」


 見た目は同じだった様な……


「そもそも、お主とは初対面じゃぞ」

「こめん、似てたから……しゃべる剣だし……」

「まぁよい。それより蓮斗とやら、上を見ろ」

「ん?」


 上……つまり、空を見上げると、黒い雲がゆっくりと増えつつあった。

 まぁ、単純に雨が降りそうな感じ。


「早く儂を鞘に納めろ」

「なんで?」

「濡れたくないからじゃ」


 剣の付近を見ると、艶の無い黒色の鞘が落ちていた。

 落ちている剣と鞘を拾い、静かに納めた。


「これで良いのかな?」

「苦しゅうない」


 何だろう……イラっとしたので、鞘に納めた剣を地面に放った。


「何をする!」

「納めたんだから、ちゃんと礼ぐらい言えないのかな?」

「くっ……カタジケナイ……」

「棒読み……しかも、今時かたじけないって」


 くだらない掛け合いをしていると、ぽつぽつと雨が落ちてきた。


「本降りになる前に、何処かで雨宿りしないと……」


 辺りを見回すと、百メートル程先に大きな木があった。

 雨宿りには丁度良さそうな木だ。

 その大きな木に向かい、走り出そうとした。


「待て!」

「今度は何だよっ!」

「……ってくれ……」

「なに? 聞こえないけど?」

「連れていってくれ……」

「なんで?」

「お主は動けぬ儂を雨ざらしで放っておく様な人でなしなのかのう……」

「……」


 まったく納得してはいないが、俺は剣を携えて木まで走る事にした。

 にしても、老人みたいな話し方で、剣に人としてどうこう言われるとは。

 そういや、かたじけないって台詞は時代劇くらいでしか聞かないな。

 でもクリスって外国人っぽい名前だし、俺の常識とは、何かズレてるいるな。


「ん……そういやお前、俺が見えているのか?」

「お前ではない、クリスじゃ。勿論見えておるぞ」

「どこが目なのかな……?」


 剣をまじまじと観察したのだが……


「剣に目が有るわけなかろう!」

「じょ、冗談だよ……」




 本当に目が有るかと思った……。

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