第190話 重力支配

生徒達も魔力支配によって魔力に満ちた空間でも気絶しなくなっていき、次第に修練の内容もステップアップしていく。

最近は魔力で満ちた修練場内をぐるぐると走り続けていた。

慣れを、余裕を感じると同時に地面が突き出しバランスを崩させる。

集中を途切れさせるなというものだが、魔力支配を途切れさせると立て直すのが非常に難易度の高い空間であるがために気を引き締めて警戒を怠らず走り続けなければならないものだから、終わるころにはもうまともに座ることもできないほどであった。

そんな中自由に動き回る者が一人だけいた


「これすごい。縦横無尽、どこにだって行ける」


宙へと浮かべられた岩から岩へと飛んでいくのはアストロ。

岩の裏に逆さまに立つと、見上げる様にしてクロイを見下ろす。


「それは良かったが、俺が周りの重力操作してるから自由に動けてるの忘れるなよ?お前だけでやったら周りのもんまで移動先に引き寄せることになるからな」


「大丈夫。自分の未熟さは、もうよくわかってるから。ただ、今はこの自由をもう少し体験させて」


一歩ずつ、一歩ずつ、アストロは重力操作をものにしていっている。

苦労せずにとはいかない。

今行っている軽やかに飛行するようなこの動きも、クロイの助けがなければ成り立たないもの。

それでも、自分がこれからどれだけのことを出来るようになるのか、出来る様にならなければならないのか、それを実感しておきたかった。


「言っとくがその移動は滅茶苦茶精密な操作を要求する。そこまで好き勝手に移動できるようになれるのは最後も最後だからな」


「そんなになの?」


「当たり前だ」


重力操作は強力ではあるが周りを巻き込む非常に危険な力。

クロイのように周りを巻き込まないように、それでいて圧し潰すような強い力を行使するにはアストロの想像を超えるほどに高度な技術を要する。


「あの真ん中の岩を引き寄せたいと思った時…………」


宙に浮かぶ複数の岩、その真ん中の岩にクロイは手を向けた。

すると真ん中の岩と共に周りの岩までもクロイのもとへと引き寄せられ、互いにぶつかり削り合った。


「お前の技術だとこうなる。今までは他に引き寄せられるようなものがなかったからうまくいっていたがまだお前には特定のものだけを引き寄せるのは無理だ」


クロイは削られた岩をもとの位置へと戻す。


「これからするのは俺が普段からしている、というか特定のものだけを引き寄せる、さっきお前がしていたような移動をするための自分だけを特定の位置に引き寄せるような重力操作だ。神眼使ってきっちり見ろよ」


ペリドットの瞳を輝かせ、未熟な少年は完成された異能を見た。

空間内にちりばめられた重力場。

完全に支配されたそれは、まるで夜空の星のように静謐であった。


「すごい」


「余計なものまで引き寄せないようにこうしていろんな場所から引き寄せてバランスを保つ。これが重力を支配するってことだ」


少年は見た。

空の神のもとに生まれ、宙の神の子に憧れた、その血を引く少年は、自分の至るべき到達点。

自身の運命という名の物語、その終着点を知った。

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