第189話 解説
「これは俺がクロイの重力を掻い潜るのと同時にマジックショー用の衣装に着替えるためにやった」
映像では
「クロイさんがやったわけではないんですか?」
「俺じゃない。俺がやってたらここで消えた術廉を捕まえるために周囲一帯を重力で押しつぶすような真似はしないし、予想外だから舌打ちもしてる」
「消える前に用意してあった魔術で重力を相殺しながら俺が現れるわけだけど、この鳥は幻覚だ。一応本物でもできたし最初に出して意識の外側になったタイミングで突っ込ませるってのも考えたがどうせ相殺されるからそっちにリソース回しても無駄だからやめた」
確かに映像を見てみると出現した鳥はそのまま上空で消えていっている。
「こいつがふざけた格好でふざけたことを言ってるから何かすでに仕掛けられた後だと考えてその策ごと潰すためにここで一撃に集中して力をためた。だが行動を起こすには遅いからこちらから仕掛けた」
「そして俺は案の定仕掛けていた罠を発動させる。合わせ鏡の中にクロイを閉じ込めた。無限に続く世界だから速度を上げても意味はない。無限に続く世界だから攻撃はどこにも届かない」
「理屈はわからないが無限と閉じこめられたってのはわかったから、重力で魔術も魔力も関係なしに全部壊した。そして出てきてすぐに捕捉したこいつの腕を引きちぎろうとしたんだが」
「俺が自切してくっつけなおした。まぁ、致命傷になる胴体だったりを狙ったところで防がれるのはわかり切ってただろうから両腕と両脚に意識を割いて力が加わった瞬間にこっちで切って対応する」
「遠距離攻撃への対処法なんていくらでもあるって見せる意味もあったんだろうな。俺に遠距離で攻撃を通そうと思ったらここじゃ使えないような規模のものになる。だから近接戦を仕掛けさせた」
「俺から仕掛けたら考えがあるのがばれるから。対応に使った仕込み杖はただの剣。たくさん折らせて、そのうえで複数の刃を突き立てようとして大して防ぐ気もない状態のクロイの身体に砕かれればこの仕込み杖は脅威ではないと認識する」
「まぁ俺はただ単純に全部砕いただけで、折れた刃を飛ばすために一瞬魔術に意識を割いたから俺も一瞬力をためてぶん殴ろうとした」
「クロイの殴りはめちゃくちゃ威力高いから結界で防ぎながら後方へ飛び退いて、そしてしっかり攻撃も忘れずに放つ。向こうから攻撃してきてる。避ける意思も防ぐ意思もないならここを逃す手はないからな」
「そして俺はここで出していいような威力じゃない攻撃を二人がするものだから『うそでしょ』っていいながら結界を張ってる。ただ、その辺は二人とも考えてたみたいで周りはしっかり重力と結界で守られてたから俺の結界と合わせて問題なく対応できた。まぁ攻撃した張本人たちは腕折れたり血だらけだったりでひどいありさまだけど」
「んでここでこいつが普段使わないような状況で神眼を使ってきたからこれがただ見せるための戦いだって気づいて正面から潰すために俺も眼帯を外した。なんというか、ここから先の攻防は考えなしというか、互いに力でごり押してるだけ。能力一辺倒で戦略性がない」
「そうだな。強いて言うなら真似するなってことくらいか。別に神眼やら魔眼やら使ったからってここまで大きく変わるようなことはないからな。まぁ、一応この刀はクロイの守りを突破できるが、神眼使ってる時の俺は大規模攻撃が主体だからここじゃ何もできない。だから刀を捨てたことを意識させるためにしまうのではなく投げてる」
「神眼を使うのをやめた様子だったから俺も眼帯をつけなおしての仕切り直し。すぐに引き寄せて得意な殴り合いで仕留めようとしたが、俺の拳はこいつの蹴りとぶつかるわけだ。ただこれ、自切だから俺の腕が砕かれただけ。すぐに重力で骨と骨とを繋いで腕をとりあえず使えるようにだけしてもう一度殴る」
「これは失敗だった。砕けた腕でよくもまあ俺の無傷の脚での蹴りに勝ちやがるって感じだ。すぐに逃げたが、まぁ逃げるっていうのは危ないってこと。追ってくるのは当然だ」
「ただ、当然罠の可能性もある。むしろ逃げるのなら逃げ足に相当の自信がなければふつうは逃げるための策を用意するもの」
「俺の策は空間と空間を繋げるってもの。まぁ、クロイが殴ってくるのはわかり切ってたからあとはきっちり対応するだけ。シルクハットと蝶ネクタイが作った輪の間の空間を繋げて、クロイに自分を攻撃させようとした。そしたら重力で引き寄せられてちょっと危なくなった。ほんとはここで空間を繋げる魔術を止めて腕を斬り落とそうとしてたけど、それを優先したら俺がもろに攻撃喰らうからそうンの方が大きいってんで引き寄せる力をそのままクロイにぶつけた。カウンターみたいなものだ」
「勝負を決めるためにここで一気に出力を上げた。正直あの程度の攻撃だといつまでたっても互いに攻撃が通らない」
「俺もクロイにのって最後に使う予定だった攻撃に移った」
「殺すつもりは別になかったし、あの速度じゃ殺すより先に攻撃が届く。だから腕をねじ切って終わらせようとした」
「自切できればよかったんだけど、さすがにあの距離だとつなげる前に攻撃されるし、相手の間合いじゃさすがに片手で対応しきれない。だからねじ切られた後の腕に後を託した」
「俺は見事に捨てた刀を警戒して仕込み杖の方は見に纏ってる重力で粉砕できると踏んで刺されたわけだ。眼帯してなきゃ気付けたが、着けさせるところまで含めてこいつの作戦。引き分けは引き分けだが自分の読み合いの弱さが最後に出たな」
これで映像は終わり。
戦いながらもよく考えろ。
結局のところ二人が教えたかったのはそれであり、実戦を見せるのが一番早いという話だった。
その中でもここは良かった悪かった、拮抗しているからこその間違いもある。
強くなるというのは自由な発想と奇をてらい過ぎずに実直な正しさの二つがバランスよく存在するということ。
今回二人はどちらか片方に寄った戦い方をしたが、だからこそわかりやすく、そして見やすかった。
どこまでもこの戦いが教材であったことがわかる。
「それじゃあ気分転換も終わりにしてまた修練を続けてくれ」
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