第183話 一段階目
気絶して、また気絶して、しばらく繰り返すうちに気絶する前に吐くようになった。
まだ足りない。
カメのようにゆっくりとした速度でもゴールへと進めているのであればそれでいいとは思うが、今はだめだ。
時間に制限のある今はもっと早く進まなければならない。
そんなことを思いながら、また気絶した。
「しばらくは耐えられるようになってきたみたいだが、これって慣れただけだよな」
「どうだろう。まぁ、それを試すためにもきくの、次はお前がやってくれ」
「わかってる。そのためにわざわざ二人も用意したんだから」
異能力と魔術を両方扱う者はほとんどいない。
その理由は異能力が魂に紐づけられた力であるのと同じように魔術もまた魂に紐づけられた力であるから。
魂が一つしかない以上はどちらか片方の力しか使うことができない。
そして魂に紐づけられた力である以上その力はその魂の在り方に大きく引っ張られる。
魔力で人を判別できるのは人によって全く違うように感じられるからであった。
そして今
しかしそんな慣れで越えられていい壁ではない。
だからきくのが、まったく別の魔術師が、まったく別の性質を持った魔力で慣れていない環境を作り出す。
無論魔力の性質に差があるのだから、難易度にも差は出る。
そして魔力はその人の性質を色濃く映すもの。
相性のいい相手であれば、難易度こそ変わらないものの魔力がその道筋を示してくれることもある。
「ああ、こういうことなのか」
リンは体内の魔力支配において生徒たちの中で最も上手かった。
そしてきくのの魔力は彼女と相性が良かったようで、魔力支配、その神髄への道を示した。
「なるほど。ならその状態で動けるか?」
「まぁ最初はそんなもんだろうな。んじゃ、他の連中も進めるか」
そう言うと
神降ろし・月読
「繋げ、我が権能よ」
「これは、幻覚⁉いや、もっと高度な」
全員がその異様さに気付いた。
ガイストはさらに踏み込んで幻覚でしかありえないと思えた目の前で起きているすべてが現実の書き換えであると理解した。
「誰か一人ができた時点で少しズルができた」
魔力は人によって違うために自分の感覚を教えても出来やしない。
けれど相手に合わせた感覚を教えることが出来ればそれは紛れもない近道となる。
ノアのような仙人が如き魔術師の感覚ではだめ。
アストロのような半神の感覚ではだめ。
クロイはもとより魔術師ですらない。
リンという、彼らと足並みを同じとする魔術師の感覚であったからこそ、同じ場所に立つ魔術師であったからこそ、彼女の魔力支配をもとに他の者たちの魔力に合わせて最適化した魔力を現実の書き換えによって出現させることができた。
これにより、全員が一段階先、魔力の乱れる環境で魔力を乱さないよう支配することができるようになった。
「さ、それじゃあ次に、この環境で動けるようになるよう頑張っていこうか」
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