第182話 嘘と計画

意識が戻り飛び起きる。

呼吸はできてる。

見渡せば変わらない修練場。

ちゃんと生きてる。


「安心しろよ。さすがに気絶してるやつをあんな場所に放置はしない」


魔力の満ちた空間になすすべなく倒れた。

全く、何も、対応できなかった。


「とりあえずまぁ、少しずつ段階を踏んでいくか」


無力だった。

もっとできると思い込んでいた。


「…………意気消沈してないでほら、まずは自分の中の魔力をきちんとコントロールして」


突然引き寄せられるようにしてガクリと膝をついた。


「集中しろ。弱いのがわかったら強くなるだけだろ」


「道が見えないんですよ」


アルトがつぶやく。


「あれほどの魔力支配に続く道が見えないんです。到達できるとは到底思えない」


「当たり前だろ。お前らに道が見えるはずないだろ。お前らが到達できるなんて思えるはずないだろ」


当然だ。


「だって本来お前らはあのレベルに至れるはずがなかったんだから。お前らについてるのはお前らの常識から外れ、世界の理からも外れた規格外だ」


クロイがいたからここまでこれた。

かんなぎ兄弟がいたからこの先を見れた。


「想像するのは俺達で、道を敷くのも俺達だ。お前たちはただゴール地点を夢想しろ。こんな風になりたいって、出来たらいいなって夢を見ろ。俺たちが連れてってやる」


そう言って術廉みちかどは魔力支配の修練を始めた生徒たちを他所にきくのとクロイのもとへ戻った。


「兄さん今いいスピーチだったって思ってるでしょ」


「胸を張れ、足元ではなく前だけ見て進め。素晴らしいだろう?」


「あんなのは詐欺だろう。第一お前は彼らがそこまでできると思ってない。そして何よりその詭弁に俺たちを巻き込んだ」


生徒には聞こえないよう小さな声で術廉みちかどを挟んで非難する。


「兄さんの言葉には必ず嘘が混じる。兄さんアインスが作戦立てた時点でもう成功するの確定してるからやる気ないでしょ」


「可愛い弟にここまで言われるとは兄さん悲しいよ」


「ふざけてる場合か。俺達とか言っておきながら自分では何もしないつもりで。悪いとも思わんが必ず巻き込んでやるからな」


アインスが作戦を立てた。

その時点で成功は約束されている。

なんの異能も魔術も持たずに予知能力者を下し、心を読む妖を下し、敗北をなかったことにしてやり直し続けた原初を下した最強の知恵者。

彼ができるとそう言ったのならそれは必ずできる。


「お前ときくのがいればどうにかなるだろ。俺は詭弁であいつらを騙してやる気を出させるだけ。まぁどうやったってあいつの読み通り。どうせ最後にはうまくいく」


だってこれはアインスの計画なのだから。

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