第181話 魔力を支配するということ

「よしじゃあお前ら…………さてはお前らよく聞こえてないな?」


修練場はいまそれはもうひどい状態であった。

きくのとノアとアストロを除いて、修練場にいた魔術師は全員まともに立つこともできず、今にも嘔吐をしてしまいそうだと言えるほどに顔色は悪く、運動もしていないのに大きく肩を上下に揺らして呼吸をしていた。


《しょうがないからテレパスだ。お前らがどうしてそうなってるかを教えてやる》


頭の中に響く術廉みちかどの声。

正直今これ以上の刺激を与えないでほしかった。


《俺が完全に支配している魔力の中にお前たちはいるわけだが、当然乱れ漏れ出た魔力を奪われたからというわけではない》


魔力切れによって倒れるほど魔力を奪われてはいない。

こうして不通に座るのもままならないような状態になっているのには他の理由がある。


《魔力というものは基本的にどんな場所にもあり、一定の量で、一定の流れを持っている。そしてそこに住む生物はその魔力に適応する形で生きている。しかしこの場所は俺が魔力の量と流れを操作している。今まで生きてきた世界とはまるで違う。この場所には、この場所だけの法則が存在している》


意識が不鮮明で、説明に思考が追い付かない。


《肉体がおかしくなったのではなく、魔力がおかしいんだ。魔力を使った感知、あれは肉体の五感を越える性能のもの。魔力が世界を誤認したから、五感もまた世界を誤認した》


もはや座っていることもできずに地面に倒れその体勢から動けなくなる。


《色や形が正しく認識できない。周囲の音がはっきりと聞き取れない。何に触れているのか、触れているのかさえもわからない。匂いや味はまぁよくわからないだろうがまともに機能していないはずだ。他には平衡感覚もだな。そして身体のどこにどのように力を入れ、地面や壁にどのように力を伝えれば動くことができるのかもわからない》


呼吸の粗さは呼吸の仕方を忘れているから。

生きるためにはしなければならない、けれどどれだけの量を吸って吐いているのかもわからない。


《対策の方法は簡単だ。自身の魔力を完全に支配する。十数年間続けてきた、十数年間生きてきた世界に適応した魔力感知を支配しコントロールしろ。そして、今までとはまるで違う法則の適用された世界を、自分自身の意思で感じるんだ》


話の終わりと同時に魔術師達は気絶した。


「…………まぁすぐには無理だろうな。けど、この中で日常生活を送り、不意打ちに対応して戦えるようにならなきゃ、魔力を支配しているとはとても言えない」


術廉みちかどは壁際で眺めていた者たちの前まで歩いてくる。


「ノア学園長、クロイ、この先もこんな風に何度も気絶すると思うが、それでもいいか?」


「彼らの心が傷付かぬというのなら」


「楽して強くはなれない。その強さには必ず代償があるものだ。正しい強さにためにお前らに任せる」


二人の教師からの許可も得て、かんなぎの双子は本格的に若き魔術師達の修練を開始した。

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