第184話 重力

「さて、これからこいつらがぶっ倒れるまでこの空間での魔力支配に集中してもらうわけだが、俺らはどうする?」


現在この空間を維持しているのはきくの。

術廉みちかどは既に現実改変を済ませている。

クロイと術廉はただ待っているだけとなった。


「暇なのか」


「ああ暇だ。というか、今のお前となら戦いたいって話だ」


「そうか、俺は嫌だ。なんでわざわざ戦わなきゃなんない」


「そこなんだよな」


クロイには術廉を戦わせるだけの手札がなかった。

生徒たちが視ることのできる状態ならまだしも魔力支配に集中している今では戦ったところで実りがない。


「しばらく暇だから署長のとこ行きたい気もするんだが、アストロと離れるわけにもいかないし、かといってアストロ連れていくわけにもいかない」


「俺は行けないからな。こっちにもいろいろ契約がある。その動きは契約に反してるからできない」


「…………しょうがない。趣旨が変わるがアストロに重力操作について教えてくるか」


本当はアストロが重力操作に頼らざる負えないほどに手段に困ったときに教えるつもりでいたが、思わぬタイミングで時間が出来てしまったため今教えようとクロイは壁際のアストロに近付いていく。

一人残された術廉みちかどもまた壁際に移動し寄りかかるようにして座ると目を閉じた。


「じゃあアストロ、俺達は壁際でひっそりと練習するわけだが、まずはこのスポンジを引き寄せてみろ」


いつの間に用意したのか小さなスポンジをポンと置く。

言われた通りアストロはそのスポンジを引き寄せてキャッチした。


「違う違う。スポンジに魔術を作用させて引き寄せるんじゃない。自分の身体に魔術を作用させてスポンジを引き寄せるんだ」


クロイは右手をアストロの持つスポンジへと向ける。

同時にアストロはスポンジを持っていない方の手を地面に触れた。


「スポンジだけじゃなく、お前自身も引っ張られたのを感じたか?こういうことだ。特別な動きをしているのは相手じゃない、対象じゃない。自分自身だ。それが重力使いのものの引き寄せ方だ」


そう言われても実践するとなると何をどうすればいいのかわからない。


「なんて言えばいいんだろうな…………ものが落ちるのはわかるよな?全く同じだ。投げたものが、自分のもとに落ちてくるんだよ。弧を描くようにして落ちているのは、俺の扱う重力と、星の持つ重力の二種類の重力に影響されているから。多分お前はこれでわかるだろ」


アストロはしばらく考え立ち上がり、数度跳ねるとゆっくりと宙に浮かびあがり、体育座りをするように体を丸めてゆっくりと回転すると着地した。

左手を開いたまま掲げ、魔力を込める。

クロイが手に持つスポンジを離すと同時に引き寄せられたスポンジはアストロの左手に握られた。

握った手を開き、手に持つスポンジを落とす。

地面へと落ちる途中で手に魔力を込めて空中で止めた。

星とアストロ、両者が重力でスポンジを引き寄せ合っている。

そして込める魔力を増やしスポンジを浮かび上がらせるようにして引き寄せると掴んだ。


「こういうことなんだ」


「大正解。素晴らしいセンスだ」

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