第157話 天才と謳われた魔術師

「今日から君たちにグリモワールについて教えることになったリブだ。教師をするのは初めてのことだから、わかりづらければすぐに質問してくれ」


「あのリブさ、先生」


「どちらでも構わないよ。それでなんだいアルト君?」


学園長ノアに嫌い嫌いといった態度で接していたリブからは考えられないほどの変わりように戸惑いながらも質問をした。


「リブさんって、どれくらい強いんですか?あわよくば戦ってみたいなー、なんて」


「戦うのは別に構わないけれど、あまり期待しないでくれよ。アルバを追いかけるために戦い方を模索しただけで私は本来研究を主としている。君たちとは真逆の魔術師だ」


「え、ですが学園順位ではアルバに次いで二位だったと聞いていますが?」


アルトのその言葉にリブはその視線をノアに向ける。


「ああ、アルバとお主が学園順位では一位と二位であった。まぁ修練場に年単位で引きこもっていたアルバも、そのアルバに追いつくべく研究に明け暮れていたお主も知らなかったかもしれないがな」


「ちょっと待ってください学園長、生徒会としての活動は?」


「今のお主らと同じで教師がしておる。そもそも生徒会事態国王陛下が学園にはあるべきだと思い付きのような形で作ったもの、生徒会がしなければならないことは特にないはずだ」


その話を聞き生徒会の面々は軽く衝撃を受けた。

今まで毎年のようにやってきた全校生徒のチーム分けや修練場の管理といった面倒ごとが全てやらずともよかったことという事実は長くやってきた者ほどにその衝撃は大きかった。


「そ、そんなことよりも今はリブさんとの戦いです」


眼をそむけるようにアルトは話を戻す。


「そんなに私と戦いたいものなのか?」


アルバのような天才ではない自分と戦いたがる少年に少し疑問に思いながらそう口にすると、アルトは目を輝かせて答えた。


「当然です‼今目の前にいるのはいわば伝説ともいえる魔術師。そんな方と戦える機会があるのなら戦いたいと思うにきまってますよ‼」


「伝説、か…………けれど私はクロイよりも弱いぞ?」


「たとえそうであったとしてもクロイさんは魔術師ではありません。天才と呼ばれた、伝説として残っている魔術師と自分の距離を私は知りたい」


それは禁忌魔術に手を伸ばした少年の心からの願い。

禁忌にまで手を染めて手に入れた力がどこまで通用するのか、それでなお届かないのなら、あとは何が必要なのか、それが知りたい。


「そう言う事ならば構わないが、知りたいと言うのは理解できるように倒されたいという事でいいか?」


そう戦いの準備をしながら何でもないように口にするリブに恐れを感じながらもアルトは問う。


「理解できないようにというのは、具体的にどういう風に?」


「時を止め、止まった時の中で君を一方的に殺す」


リブの言葉に他の誰よりも先に声を上げたのはノアであった。


「リブ、お主は時間の停止までできるようになったと言うのか⁉」


ウィルとノア、魂に干渉する魔術と時間に干渉する魔術の二つを以てして不老にまで至った二人だが、その二人でさえ時間の停止は不可能であった。

千年の間に魔術は進化し続けている。

そのすべてを見てきて過去の者と掛け合わせたりもしてきた二人が未だ至れていない次元へとリブはいつの間にか至っていた。


「といってもアルバ達みたいに世界丸ごととはいきません。ある一定の範囲内の時を止めるだけです」


「なら全部よければいいってことですよね?」


「君は国の外にでも逃げる気かい?」


魔力感知と転移によってすべて避け切ってやろうと準備運動を始めたアルトの動きが止まる。


「一定範囲といっても、この国丸ごと止めるくらいはできるよ」


「…………それなくても強いんですよね?」


「今の君では全く対応できない魔術はいくらでもある」


そう口にしたリブの微笑みにアルトは完全に恐れを抱いた。


「じゃあ理解できるように倒してください」


「ああ、そうしよう」


そうして始まったアルトとリブの戦いは、リブの圧勝で終わった。

開始の合図とともに転移をしたアルトは、リブもまた転移ができたために移動における一切の優位を得ることができず、それどころか魔力支配において圧倒的に上を行かれ、自身の身体を転移させられ不可視の檻の中で身体をふらつかせた後その場に倒れた。

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