第156話 新たな教師

「おや、客人のようだよ」


女性の言葉に眼鏡をかけると壁の方を見つめる。


「すみません、追い返してきます」


「別に追い返す必要は…………行ってしまったか」


戸を開き森へと飛び出すと急ぎ足で木々を透過して見えた集団のもとへ向かった。


「学園長、もう来ないで下さいと言ったはずですよ」


「しかしリブ、お主にしか頼めんことじゃ」


近づいてくるリブには気づいていたため驚いたりはしないが、そもそも話を聞こうとしていた相手がリブであることに生徒たちは驚いていた。

そんな生徒を他所に会話は進んでいく。


「嫌よ。そんなにぞろぞろと引き連れて、私とアルバの平穏を邪魔しないで。というかそこのクロイに頼めばいいじゃない」


「悪いが俺はグリモワールについて詳しくないんでな」


クロイはお手上げという風に一歩引いて答える。


「待って、グリモワールってどういうこと?」


前と同じで行方不明者の捜索、そうでなくとも何かしらの事件、事故の解決をさせられるものだと思っていたために最初から断っていたが、どうにも予想とは違う内容にも思えてきた。


「グリモワールとは一体何なのか、儂らはそれを教えてもらいに来たのじゃ」


「…………それで私にしか頼めないことですか」


「もう一つあるがこっちはアルバやハンスがいないからになってしまうが、リンに眼の使い方を教えてやってほしい」


使うとすぐに倒れてしまうため未だ実用段階まで至っていない眼の強化魔術をどうにか実用段階に引き上げる。

アルバやハンスといった神眼使いがいればよかったがあいにくと今はおらず、クロイの眼はそれとはまた違うものであり教えられず、同じ神眼ではあるものの使いこなせているわけではないアストロでは教えることはできない。

そのために神眼をモチーフとした眼鏡型魔術礼装を普段から使用しているリブに頼みに来た。


「まぁ眼については構いません。けど、グリモワールについてはちょっと…………」


「覚悟はもうできてます」


「常識を超えた力はもう見飽きるほどに見てきました。だからもう大丈夫です。どうか教えてください」


頭を下げる生徒たちの姿に頭を悩ませる。


「別にいいじゃないかな?」


森の中をゆったりとした足取りで二人の女性が歩いてきた。

毛を逆立てた猫のように不機嫌に睨むクロイの視線をそよ風の如く無視して話を続ける。


「長いこと見つかっていなかっただけであれは元々この国にあったもの、別に見せたところで大きな変化はないよ」


「そうですか…………イリスさんが言うならわかりました。ただ学園長、教えるのはいいですが修練場を使わせてください。森でやるのはあまりに危険ですから」


「それは構わぬが、いいのか?」


「ええ、もとより彼女の眼については暴走などする前に使い方を教えなければならないのでどちらにしても話を聞いた時点で行くことは決定してましたから」


リンのものは神眼ほどの効果はない魔眼だが、扱い方がわからない状態では眼を閉じてなお見え過ぎてしまうほどのもの、使い方を教えないわけにもいかなかった。


「先に修練場に戻っていてください。準備をして後から追いかけます」


「わかった。場所は第二修練場、外見は同じだが新しく造られた方だから間違えないように」


「アルバが使っていたものが第一でそうでない方ということで間違いないですか?」


「ああ」


「わかりました」


合流地点も決め、また新たな天才が教師役として加わることとなった。

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