第154話 ギフトvsアルト
「今度は君が落ち込むなんてのはやめてくれよ?」
「大丈夫です。自分が弱いと自覚したとしても、私は自分だけで先へと進めます。なにせ私は、魔導書とその本来の持ち主の想いを背負ってますから」
二人は言葉を交わしながらもその集中を一切きらしてはいない。
相手の現在の魔力の流れ、周囲の状態、相手の行動予測を列挙し対策を考える。
試合開始の瞬間まで、可能性の全てを考え、潰し続ける。
炎が上がり、試合が始まった。
しかしどちらも動くことはしなかった。
どちらも完全に後の先狙い。
お互い最速の魔術師でないにもかかわらずその万能さゆえに対応できてしまうために動けない。
速攻を狙い転移すればただ用意された罠に飛び込んで終わり。
下手に攻撃すれば転移に対応できなくなりかねない。
かといって準備をすぐさま終わらせようにも全力で攻撃されてしまえば準備を終える前に戦いが終わる。
お互い何でもできてしまうがために、相手の動きを見てからでなくては動けなくなってしまった。
固まった時間はほんの数秒。
明らかな異常にアルトはすぐさま転移しギフトに殴りかかった。
展開された小さな陣を拳が通り抜け、アルトの右手に魔術礼装の白いハーフグローブが装着される。
拳は飛来した止められるが、突如炎を纏い、そして剣を溶かすように穴をあけながら炎を放った。
そして再びアルトは転移しギフトから距離を取る。
仕留めることはできなかったが、ギフトもまた異常な空白に攻撃へと転じようとしてしまったがために後の先の構えが崩れ攻撃を防ぐにとどまった。
互いに悔やまれる攻防ではあったが、前後も含めこの攻防を制したのはアルト。
転移で戻った際に完全に魔術礼装を装備し終え、ギフトよりも先に準備を終えた。
地面をけると同時にギフトの正面に転移しその加速を転移先に残したまま蹴り上げる。
剣を二枚重ね防ぎつつ後方へ下がり距離を取る。
剣は二枚重ねるも蹴りによって折られその威力をギフトへ伝える。
アルトは逃がさないと再び転移し蹴りを放つ。
先程の情報からすぐさまアルトの体術による戦闘力を修正し防御に回す剣を増やし今度はアルトの蹴りを止めた。
だがしかしアルトは魔術師、蹴った足から魔術を放ち残った剣を貫いた。
魔力の高まりに身体を仰け反りかろうじて避けたギフトは崩れた体勢を持ち直すために後方へ宙返りをして着地しようとしたがアルトが背後へと転移をして蹴り飛ばした。
無論剣を向かわせたが転移によって避けられる。
地面にたたき落されたギフトが顔を上げると、目の前の地面が突き出した。
頭部を貫かんとする細くとがった地面を転がるようにして避けるが、アルトが転移する。
ほとんど身動きの取れない状態だったが、アルトの振り下ろす脚が止まり両手で剣を受け止めた。
そしてすぐさま剣を残して転移する。
次の瞬間剣は爆ぜた。
地面にたたき落される際、ギフトは空中で何とか陣を一つ描いていた。
これでようやくギフトもまた最低限とはいえ準備ができた。
そしてアルトはその足を止める。
準備をされる前に速攻で終わらせるつもりであったが、剣に魔術を刻まれ範囲攻撃が可能となった以上避け続けるのはさすがに厳しい。
しかしそれで止まるアルトではない。
一瞬足を止めたアルトであったが、それは単純に攻める準備をしていたに過ぎない。
アルトは無数の爆ぜる剣が立ち並ぶ地帯へと飛び込んだ。
そして剣が反応するよりも早く自分を中心に辺り一帯に炎を放つ。
剣がアルトに向かい飛来したと同時に転移し炎の外へと飛び出すと、すぐさま炎の中へと転移した。
炎の中、転移したそれは剣によって貫かれ、そして爆ぜた。
しかしそれは魔力の込められた木偶人形、ただの囮であった。
気配を殺し、転移もせずに距離を詰め殴り掛かるアルトだが、その拳が届くよりも早く剣がその腹を貫く。
諦めて剣を両手で受け止めるとそのまま転移し距離を取る。
そこでようやく攻守が交代した。
下手に転移をして状況のわからない場所で対処するくらいならばとアルトは留まり向かい来る無数の剣に向かって魔力の波を飛ばした。
すると剣は刻まれた魔術を発動させアルトに届くよりも前に爆ぜた。
アルトは先程自身の魔力の中で剣を掴んだ際に魔術の解析を済ませていた。
しかしそれも長くは続かない。
勝手に発動させるためにはそれ専用に魔力を調整しなければならず、今こうしてギフトが行うように数で攻めるようなことをさせれば発動が間に合わなくなる。
四方八方から迫る無数の剣を前に、アルトはより一層気合を入れる。
剣は延々と爆発を起こし、ただ時間だけが過ぎていく。
五分ほどが経っただろうか、これを防げるのであれば続けたところで先に魔力が切れるのはこちらだと考えてかギフトは攻撃を一度止め、爆炎を風によってふきとばした。
しかし中には当然の如く立っているアルトの姿。
その両脇には二振りの剣があった。
それは紛れもなくギフトの剣。
完全にアルトはギフトから剣を奪っていた。
「いいねこの剣。堅い上に操作もしやすい」
そう言って剣にアルトが触れると、二振りの剣は無数のナイフへとその姿を変えた。
ただ二振りだけとはいえ、アルトはギフトから剣の支配権を完全に奪っている。
その様子に焦ったギフトは咄嗟に剣を放とうとした。
しかし動きながらにそれが過ちであることを理解する。
アルトはギフトの傍へと転移した。
両手を合わせ指先をギフトへと向けている。
反撃はできずともギフトはアルトの方へと剣の腹を向け、防ごうとするが、反対側のナイフと位置を入れ替え、手で挟み込んでいたナイフを勢いよく射出した。
仰け反るギフトの首を掠めたかに思えたナイフはその軌道を変え、爆ぜた。
首元を全力で防御したために何とか助かったものの、ギフトの武器をさも自分のものであるかのように使いこなすアルトに危機感を覚える。
「さすがにあの距離なら無理やり行使させられるか」
本来軌道を変えたナイフはギフトののどを貫くはずであった。
しかし爆ぜた方がまだましだと考えたギフトの手によって刻まれた魔術が行使された。
相手の武器であったからこそ、押し切ることができなかった。
「よく言いますね。他のナイフも転移させて攻撃しておいて」
アルトもアルトでギフトが首を護るのに集中しているのをいいことに他の部位へとナイフを転移させギフトが爆ぜさせるのに合わせて自滅させた。
どれも即死には至らない傷ではあるが、戦闘の結果を左右させかねないような致命的なもの。
この先ギフトには回避という手段は残されてはいない。
完全に優位に立ったかに思えたアルトだが、突然回避行動をとった。
そして左腕が宙を舞う。
「気付けるんですね」
「…………透明の剣。物に気配はなく、魔力支配じゃ間に合わない」
動けないからこそ、動かないからこそ、攻撃に集中できる。
アルトは大きく深呼吸をすると駆けだす。
残った三つのナイフを操作しギフトを囲むように放ちその位置を入れ替えながらに距離を詰めた。
しかしあと一歩届かなかった。
ほんの一瞬遅かった。
燃える手刀を放った右腕が、ギフトの首に触れるよりも先に斬り飛ばされた。
そして残ったナイフも爆ぜ、事前に位置の指定をするだけの時間がないために転移が出来ず剣はアルトの首を斬った。
金属音。
剣は首を斬り落とすことができずに止まる。
アルトは自身の首の中に、最後のナイフを転移させ剣を止めた。
そして、口角を少し上げ笑うと、ナイフをギフトの心臓へと転移させた。
しかし同時に剣を止めていたナイフが消えたことによってアルトの頭部は胴体から切り離された。
倒れるアルト、膝をつき倒れまいとするギフト。
数秒後にギフトもまた絶命したものの、この戦いをほんの数秒の差で制したのはギフトであった。
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