第153話 ギフトvsリン

「アルト先輩との問答はどうでしたか?」


「……………………」


「答えないということは、そう言う事なんでしょうね」


晴れた空、重い空気。


「リン先輩。今の貴方が相手ならば、私もアルト先輩と同じように手加減します。けれど、私はアルト先輩ほどやさしくはありませんからね」


爆炎が上がり試合が開始した。

開始と同時に地を蹴り正面から殴り掛かるリン、その行動を事前に予測し大量の剣を重ね防壁を作りギフトは受け止めた。

そして尚も力業で突き進もうとするリンの両脚に剣を突き刺した。


「リン先輩は、これでも動けますよね」


そう煽るように口にして、ギフトは剣で作った防壁の裏で陣を描く。

防壁のさらに外側をぐるりと囲うサークルのような陣を突き飛ばすように押し、防壁を、そしてリンをその中に通した。

次の瞬間、中を通った全てのものが燃え上がり始める。

苦しむリンを他所に、ギフトは過ぎ去った陣に少し描き足し魔術を変更し、すぐさまその陣を通した一振りの剣をリンの背後から突き刺した。


「わかってますよね、その剣に刻んだ魔術を行使するだけで貴方は負けるんですよ。それが貴方が選んだ道で、貴方の間違いです」


ギフトの手加減。

それは、普段のリンであれば、今までのリンであれば避けるか防ぐかが出来る攻撃の実をするというもの。

全て受け止め、すべてねじ伏せるという考えが如何に愚かかを思い知らせるような戦い方であった。


「勝ちたいなら、爆ぜさせればいい」


身を焦がす炎を魔力と共に右手へ集約させる。

アルトとの戦いで披露した攻撃力だけを考えた完全な力技。

さすがに受けられないとギフトは剣に飛び乗りすぐさま逃げる。

凄まじい衝撃と爆炎をあたりに放ち、剣の壁は粉々に、地面や壁は焼け焦げた。

そして次の瞬間、砂塵と爆炎に穴をあけるようにリンが飛び出し、空を飛ぶギフトの目の前まで迫る。

そして背中から腹を貫く剣が爆ぜた。

しかしリンはそれでも止まらずギフトを地面へと蹴り落とした。


「リン先輩の肉体強化って本当にすごいですね」


地面に立つリンの腹には剣に貫かれた穴はあれど爆発による穴は一切なかった。

肉体の内側までも強化する研ぎ澄まされたリンの魔力と魔術。

ただ一直線に、そして今まで以上の速度を以て、リンはギフトとの距離を詰めその拳を突き出した。

次々と剣を砕きそして、最後の一振りで止まった。


「グリモワールが作り出す剣と結界魔術の組み合わせ。さらにそれを重ねれば、例えリン先輩であろうと簡単には貫けませんよ」


リンの心臓めがけて大剣が放たれたその時。


「僕の覚悟を勝手に背負うな‼」


観客席から声が聞こえた。

意識は一瞬迫る大剣から声の方へと向く。


「それは僕の覚悟だ。僕の想いだ。勝手に踏みにじったなんて思うな。僕は今だって、いつか倒すとそう想っているんだから‼」


ギフトは砂塵の中を見つめる。


「タイミングが悪かったなと、そう思ったんですよ。でも、そうでもなかったみたいですね」


砂塵の中、眼から血を流すリンが大剣を正面から受け止めていた。


「もう大丈夫ですよね。それなら、いきますよ」


無数の剣がグリモワールから飛び出し、会話をしながら描いていた陣を次々と通り抜け、リンへ四方八方から迫る。

しかしリンはその剣を次々と避けていく。

ギフトの軌道はほぼ完璧。

まして剣には魔術も刻まれており飛来する剣がどんな軌道を描くか、どのような攻撃に変化するかなど分かるはずもない。

にもかかわらずリンはそれらを完璧に避け切ってみせた。

しかしそれでも、数を前にはどうすることもできない。

避ける隙間すらない攻撃をされればどうしようもなく、力で蹴散らそうと、技で捌こうと、剣の群れに終わりはない。

大きな傷はなくとも、傷は徐々に増えていく。

そして軌道の違う一振りの剣がリンの首めがけて斬りかかり、触れる寸前で止まった。

他の剣も同時に止まる。

剣の群れの中で、リンは地面に倒れた。


「強化魔術だけでよくもまぁそれだけの眼を手に入れたものだとは思うが、すぐに使いこなせるほど甘いもんじゃねぇよ」


観客席でクロイが笑う。

勝者はギフト。

神眼とまではいかずとも魔眼と呼べるほどの眼を手に入れたリンは、その情報の多さに耐えきれず気絶した。

無論気絶せずともギフトが勝利していただろう、しかしギフトにとっては相手が限界を迎えるまでに倒せなかったという自身の不完全さを示すもの。

大きく息を吐き、勝者のコールが為される中で戦闘の最適化を始めていた。

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