第95話 絶望
あれからどれだけの時間が経っただろうか。
何度も何度も何度も何度も殺されて。
何度も何度も何度も何度も蘇る。
けれどそれは未だ終わらない。
未だに殺され続けている。
何も感じなかったのならいつか殺されることもどうでも良くなっただろう。
けれど一瞬では殺されず、叫ぶことが出来ないのに、痛みだけが全身を駆け巡る。
もう殺されたくない。
もう死にたくない。
もう…………戦いたくない。
「———————‼」
「———————‼」
「———————‼」
何かを叫ぼうとして、叫ぶ間もなく殺されていく一人の少年は、全身を痛みが駆け巡る中で、次に蘇った時の動きを考える。
「———————‼」
「———————‼」
「———————‼」
蘇生と同時に腕を吹き飛ばされ杖を振るうことが出来ないまま殺されていく一人の老人は、何度殺されども全てを呑み込むような黒い瞳を、戦意の消えない瞳で睨み続ける。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
唯一何をどうしたって絶望しないだろうという判断の元遠距離から作業のように殺され続けるアストロは、ただ無感情に痛みを、死を、受け入れ続けていた。
元々そういったものには鈍かったが、今は理解し許容している。
生物は死ぬもので、ここでは何度も蘇る。
クロイという男が生と死を繰り返すことを是として、今ここにいる者は繰り返し続けている。
アストロは、ただずっと、終わりを待つだけ。
「お前の……」
ノアが言葉を発する。
言葉を口にする間もなく殺され続けていたノアは、杖を振るうことが出来ないまま殺され続けていたノアは、死を繰り返しながら、何度も何度も蘇りながら、少しずつ少しずつ、何度も意識を途切れさせながらも、一つの魔術を行使した。
「爺さんあんた最高だ。話くらいは聞いてやる」
ノアの使った魔術はクロイの攻撃を防いだ。
「お前の思い通りに絶望するなどと思うなよ」
「死は絶望だぜ。俺ら天才にとってもな」
殺戮を繰り返しながら、ノアを認めたのは事実らしく行動を起こそうとしたときに妨害するのみで話の邪魔はしないでいる。
「死は終わりで、先がない。俺達にはずっと先が見えてる。無限に進み続けられる俺達の道を閉ざす死は、俺達にとっての確かな絶望だ。お前やそこのアルトもきっとそうだ。無念の中に死んでいく」
死を恐れるから不死を目指す。
けれど天才たちは決めている、不死にだけは手を出さないと。
不老となった今もそれは変わらない。
不死に至る方法に気付きながらも、不死にだけは至らない。
本当に終わりが無くなれば、成長は止まる。
永遠の時間は素晴らしくとも、終わりがあることに意味がある。
終わりがあるから必死になれる。
死の否定は生の否定、生きとし生ける者としての在り方だけは否定しない。
「天才だろうと化け物だろうと死ぬ。終わりに、先へ進めないことに絶望する。けどそいつらは違う。無念の中に死ぬんじゃない。進み続けて、ようやく止まれると安堵するんだ」
決定的に違う。
いざ終わりが来たとき、目を閉じる者と、目を見開き手を伸ばす者。
止まりたくないと、まだ先に進みたいと足掻く者。
天才であるか天才でないかではなく、心の奥深く、無意識の差。
「絶望してなお進み続ける者こそが強者だ。お前やアルトなら蘇生の出来ない状況で俺に致命傷を負わされても俺と戦い続けるだろうさ。お前が今、限界を超えて魔術を行使したように」
見透かされていた。
意識が途切れれば行使しようとした魔術も崩れる。
それを途切れ途切れの意識で魔術を行使したノアの技術、それは今までのノアにはできなかったもの。
「けど、あいつらは殺されたところで絶望しねぇ。だから終わらない死で絶望させる。なめんなよ爺さん。俺に睡眠も食事も必要ねぇ。何日だって何か月だって殺し続けられる。絶望するその日まで、俺は殺し続ける」
その言葉にノアはクロイを攻撃しようとするが、重力によって潰された。
「大人しくしてな。不老のあんたにとっちゃ、この程度大した時間じゃない」
殺戮は続く。
誰にも止めることはできない。
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