第88話 強者

ハンスとアルバの従兄?

アストロには、アルバたちとの血の繋がりがあったのか。


「なぁクロイとやら、強いのなら手を貸してはくれんか?」


「嫌と言いたいところだが護衛は暇でな、暇つぶしに付き合うくらいはしてもいい」


壁際に座ろうとしていたクロイがアストロのそばまで戻ってきた。


「魔術だなんだってのは使わないでやるから掛かって来い。どうせ勝てない」


魔術を使わないという宣言。

真っ先に仕掛けたのはリンだった。

遠距離を捨て去ると宣言した相手に、誰よりも舐められていると感じたから。


「……おっ」


警戒はしていなかったはず、だが当然の如く対応された。

腕を払われ隙が出来る。

足を払われ体勢を崩す。

一瞬クロイの動きが止まった。

そこにリンが殴る蹴るの連撃を叩きこむ。


「ちょ、はやっ。俺戦闘経験他より少ないから読み合いは苦手なんだけど……」


動体視力と反射神経を頼りに愚痴を言いながらもリンの連撃を捌き続ける。


「………ま、苦手だとしても勝つけどな」


腕を払い足を払い、今度はそのまま地面に倒した。

膝を付いて首に指を触れ笑った。


「舐めてっからそうなる。最強で来いよ、それでも勝てないから」


「………では、次は儂がやってもいいかのう?」


その戦闘を見ていたウィルが突如名乗りを上げた。


「あんたはやだなぁ。魔術だとか無しでどっこいどっこい。使わないって言ってたら負けちまう」


「使ってもいいと言ったら勝率はどれくらいになる?」


「絶対勝てる。一歩も動かないどころか寝たままでも勝てるくらいだ」


「そうか、それは残念だ。力加減はむずかしいようだな」


「……やめとけ」


突如ウィルが吹き飛ばされた。

壁にめり込み呻き声をあげる。


「時間の操作で自分の肉体を加速させるか。昔アニメで見たことあるぜ」


肉体強化を解いていなかったリンには見えていた。

自身の肉体に魔術を掛け、自分たちが扱う魔術以上の凄まじい速度で、一瞬にして距離を詰めたウィルが、触れられただけで吹き飛ばされる様が。


「アニメ……確か娯楽だったか。陛下と同じものを、お前も知っているのだな」


「………ああ、そっか、この国の王って」


救国の為にと最高神の手によって転生させられた日本人、アニメの事も知っていた。


「修練場の壁を砕き、ウィルを正面から吹き飛ばすか。まさかとは思うがお前、アーテルを誘拐した輩の仲間ということはないだろうな」


ブラッディ・メアリーを一種の指標としたが、その実力を前にこれだけで確認ができたと信じ切ることが出来なかった。


「誘拐……確かそういう依頼が一件あったな。鎖使ってたか?」


「ああ」


「そうか、なら多分同僚だ。ただうちは何でも屋だからな……依頼次第じゃ敵対もする。俺への依頼はこのガキ護る事だ、だからあいつらとは関係ないし、こいつを狙うようなら全力で殺し合うだけだ」


「そうか……」


「そういえば、護衛はいつまで続けるんだ?」


ようやく壁から抜け出してきたウィルが問う。


「卒業までだな。って言っても、事情が変われば短くなるそうだから実際いつまで護衛をするかはわからん…………もしかして、俺の護衛期間から事件の詳細測ろうとしてる?」


「長くかかりそうだとそう感じた程度だな」


「そう、応援くらいはしておく」


多くを知りながら、多くを語れないとその瞳が言っていた。


「………では正式に依頼をしたい」


「え?」


「護衛期間中は、護衛優先で構わないので、生徒達の戦闘訓練に付き合ってもらいたい」


二人の学園長を視線で往復する。


「暇だったらというものではなく、正式に、仕事としてお願いしたい」


予想外。

敵でなくとも敵に近しい存在だと自分を認識していたためこのような展開になるなどと思ってもみなかった。


「こんな突然現れたよくわかんない奴に、マジで言ってんの?」


驚きを通り越して呆れてくる。


「お前なら、儂の代わりが務まるだろう」


「魔術とか全然詳しくないぜ」


「だがお前は強い。戦いのプロだろう?」


「それに、魔術は儂が担当する。お前がウィルの分を此処で果たしてくれれば、ウィルが情報収集に動けるようになる利があると儂は感じている」


知らない敵が知らないうちに動いていた。

国の中枢でありながら情報が不足している。

情報を集めようにも人員が足りていない。

指導役をするには他の教師では役不足。

情報収集は他の者には危険すぎる。

どちらか片方を任せられる誰かが必要だった。


「そういうのぜんぶさ、信頼とか信用があってのものだろ?んで、その二つは今の俺に一番足りて無いもののはずなんだけど」


「眼を見ればわかる」


「………は?馬鹿だろ。俺の眼を見て信じるとか…………馬鹿らし過ぎて最高だ」


光すらも呑み込む黒い眼を持つクロイは不敵に笑う。


「いいぜ、その依頼受けてやる」


学園長ですら相手にならなかった男が今、生徒達の指導役に就任した。

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