第89話 異能力

「魔力を一切感じないのですが、どうやってるんですか、それ?」


「メアリーの奴もそうだった。何をどうしてあんな風に魔術を?」


ギフトたちはクロイに挑むも、まともに立つことすら出来ず、縦横無尽に吹き飛ばされ続けた。

吹き飛ばされるというよりも、引き寄せられるという感覚ではあったが。

魔術を放つ余裕はなく、そもそもその予兆を見せれば一瞬にして崩された。

為す術なし、赤子の手をひねるほどに簡単と言われても仕方がないほどであった。


「ん?俺魔術使えないぞ」


「…………え?だったらさっきまでのは一体」


「異能力だ」


異能力とクロイは言った。

全くの未知。

魔術師たちは、誰一人としてそれを知らなかった。


「魔術は汎用性に優れている。異能はその逆で一つしかできない代わりにその一つを極めたものと言ってもいい。ただまぁ、この国の王みたいにとんでもねぇ汎用性の異能を持ってる奴もいるがな」


完全に未知であるはずの力が、この国の三千年に渡る発展に大きくかかわっている可能性をクロイは示した。

国王の異能。

最強として君臨し、この国をただ一人で護り続けた者の力。


「異能とは一体何だ?」


鬼気迫る表情で問うノアに一瞬圧されるも、余裕の笑みを浮かべると胸を叩いて答える。


「魂だ」


オーラとでも言うのだろうか。

有無を言わせぬ迫力をその青年は放っていた。


「魂に紐付けられた力。魂が形を変えたものと言ってもいい。得意とすることならば魔術以上の力となる。こんな風にな」


クロイは上空に黒い空間を生み出す。

それはアストロが作り出したものと似ているが、上位互換とも呼べる代物だが、あまりに格が違いもはや別物であった。

身体がほんの少しの重圧を感じる。

黒い空間に呑み込まれないようクロイが、今まで攻撃に使っていた圧し潰すような力で相殺していた。

相殺していない場所にあった瓦礫は黒い空間に引き寄せられるように空へと昇り分解され呑み込まれるよりも早くに消失した。

修練場から呑み込むものが消えると黒い空間は消え去る。


「さて、こんな風にアストロがいろいろと下準備して発動させた魔術より効果を高めたものを気軽に使えてしまうわけだ。まぁ、俺が異能力者の中でも強い部類ってのもあるがな」


アストロの魔術なら消去できると判断したが、今のものは無理だ。

影も形も見えてこない。

異能と魔術は完全に別物だと、ノアはそう理解した。


「長年気になっていたことがある」


本人に聞いても答えてはくれない。

異能を知り、ようやくわかった。

秘密にしておきたかったのは、自分が何をしているかではなく、異能という魔術とは違う力の方であったのだと。

あの方の異能を知る者がまた再び現れる可能性はどの程度なのだろう。

この機会を逃せばもう二度と知ることはできないかもしれない。


「お前は知っているのだろう、王の持つ異能の正体を」


三千年間この国を統治してきた、幾度となく繰り返される戦争をたった一人で勝利し続けた最強の王の持つ異能。


「知ってるぜ。アイツの持つ異能は……空間の支配だ」


空間の支配。

この国において禁忌とされる魔術。

禁忌の理由は王の持つ力と同じだから?


「ま、この言い方じゃ伝わらないだろうからどのくらいヤバいかだけ言うと……アイツが支配する空間内では存在全てにアイツの許可が必要になる」


よく理解できない。


「つまりは、アイツが空間内にいる誰か、何かに存在することを許可しなかった場合そこにいた誰かは、そこにあった何かは、消え去ることになる。まぁ死ぬってことだな」


笑いながら言っているが笑い事ではない。


「支配できる範囲は?」


「範囲を広げれば支配力は落ちるみたいだがどこまで支配できるかは俺も知らん。ただ……この国は余裕で支配できるらしい」


この国全てを支配する。

今までの事を考えれば当然と言えば当然だ。

だが、この平穏は王が人智を超えているからこそ成り立っていたもの。

それが今異能という形を持ってしまった。

異能力者と言う人間らしさ溢れる者が出てきてしまった。

王の権威が揺らぐ。


「……らしいというのは?」


「俺も聞いた話でしかないんだが、三千年以上前世界が滅ぶような大災害から一人で国を護ったらしい…………またらしいで終わっちまったな」


三千年前以上前の、王が王となった大偉業。

それを言伝であったとしても知っている者か。


「……別にいいさ。話してくれてありがとう」


「…………あの、つまり、国王陛下が力を独占するために空間の支配は禁忌となっているということでしょうか?」


イフが手を上げ口をはさんだ。


「馬鹿言うな。お前らが空間を支配できるようになったところでアイツのようにはいかねぇ。何せ俺でも何も出来ずに殺されるんだからな」


「…………それはつまり、空間の支配には抵抗することが出来るということですか?」


「まぁな。お前ら魔力支配の練習してたろ、あんな感じだ」


「……成程」


口に手を当て思考の海に沈んでいくイフの頭を、いつの間にやら近付いていたクロイが軽く叩いた。


「お前は今何のために強くなろうとしてる?この国の王倒して革命を起こすためか?違うだろ。友人を助ける為だろ」


「……すみません。ありがとうございます」


「……………………」


想像以上に教師をしているクロイにノアは驚愕した。


「ともかく、異能っつう魔術とはまた違う力があるって話だ。言っとくが基本どちらかしか一方しか使えないし、この国っつうかこの大陸じゃ異能力者はこの国の王だけだと思っとけ。俺は部外者だ」


「私たちでは使えないのですね」


「あんま落胆すんな。アルバもハンスも使えないんだから」


イフの頭をポンポンと叩く。

叩きやすい位置にあるから叩いているのではとノアは思ったが流した。


「さて、俺の力が何なのかって話は終わりで、こっからはまた修行だ行くぞー‼」

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