第81話 これからの話
「あの、そちらの方は?」
修練場に集められたメアリーを除いた生徒会とイフ。
そして、学園長の隣に、知らぬ老人が一人。
「儂を知らぬか。まぁ無理もない。儂等はそうそう表には出ぬからなぁ」
時代は移り行く。
憧れも、変わっていく。
「儂はウィル。第一学園学園長のウィルだ」
瞬間、魔術を発動させようとしたアルトの腕を掴み拘束する。
「早いな、素晴らしい。ああギフト、二歩下がれ」
聞く必要などないはずの言葉。
だがギフトは素直に二歩下がった、威圧によって下がらされた。
上から降ってきた剣が目の前に突き刺さる。
「さすがにグリモワールを傷つけるわけにはいかん」
攻撃のためにと開いたグリモワール。
アルトが近すぎ動けずに開いたままであったグリモワール。
そのグリモワールを、投げた剣で貫こうとしていた。
「ハンスと戦ったのだろう?さすがにあれほど強くはないが、お前達が束になっても敵わぬ程度には、儂は強いぞ」
「……何故貴方がここにいる。貴方は敵のはずでしょう」
第一学園との戦いが条件であるなら、その第一学園の長たるウィルは敵となる。
当然そう考える。
友人であるノアですら同じように考えたのだから。
「残念だが、儂の学園はもう儂の手中にはない。乗っ取られておる」
「ならなんでこんなところにいる。助けろよ‼戦えよ‼早く動けよ‼」
「動くのは構わん。戦うのは構わん。助けに行くのは構わんが、十中八九アーテルは死ぬぞ」
人質が、最強と謳われた老兵を縛り付ける。
「儂等では動けん。だが、指名されたお前達であれば動ける」
「儂等が助けることは出来ぬが、助けようとするお前達を強くすることはできる」
「……………」
目の前に立つ二人の老人は信頼できない。
隠し事が多すぎる。
ウィルにいたっては敵の指定した第一学園の学園長。
実際に乗っ取られている学園を見たとしても信頼することなど出来ない。
隠し事の多い二人。
致命的な嘘が何処に潜んでいるかわかったものではない。
「焦り過ぎじゃ」
ギフトは学園最強、そのはずだった。
ガイストに負けた時、そんな魔術を隠していたのかと驚いたが、すぐに対策を考え次は勝てると確信した。
ガイストにアーテルが勝ったと聞いた時も、一度負けるかもしれないがその次には勝てると思った。
グリモワールという特別な力と、学園一位、学園最強の座に驕っていた。
ブラッディ・メアリー、黒騎士、勇者、学園長。
誰にも勝てない。
いずれ追いつくと、追い越すと言った。
それなのにこの先、あれほどの力を付ける未来が見えてこない。
どうすればいいのか、何もわからない。
「儂等はお前達よりも強い。そして何より学園長、教師じゃ」
思考を覆う霧が晴れる。
「ほら、ギフト」
背中を叩かれてようやく自分が何者であるかを理解した。
この場にいる子供たちは、紛れもなく生徒である。
それは当然ギフトもであり、生徒ならばやることは決まっている。
「「戦い方を教えてください」」
学ぶのだ。
教師から、大人から、学べる全てを学ぶのだ。
「任せておけ。儂等が見ている景色を、お前達にも見せてやろう」
「制限時間は三年。戦う度に埋まっていく差に焦ってもらおうではないか」
強くなる方法がわからず、その上で三年しか時間がないと焦っていたギフトとは逆。
お前達は強くなれるとノアは言った。
三年もあれば精神面も追いつめられるとウィルは笑った。
「なんでそうも気楽そうに言えるんですか?こんなにも、圧し潰されそうなのに」
誰かの命がかかった戦いは初めてだった。
それも格上が相手となれば、なおさら精神への負荷は凄まじい。
「気楽そうか。そう見えるなら良かった」
「安心して強さを求め続けよ」
優しい笑み。
もう疑ってはいない。
初めて素顔を見たような、そんな気がした。
ようやく、信じることが出来た。
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