第80話 学園長

蹴破るが如き勢いで扉を開ける。


「久し振りだな、ノア」


「ああ久しいのう、ウィル。儂が何故ここに来たかはわかっているか?」


二人の老人は見つめ合う。

千年来の親友、表情を見れば嘘かどうかなどすぐにわかる。


「……すまなかったとは思っている」


嘘ではない。

紛れもない事実だ。

杖を握る手に力が入る。


「お前の魔術を見て、お前が選択したことを理解した。触発されてな、儂も動き出したのだが、時既に遅し」


瞳に後悔を映す。


「知らず知らずの間に、我が学園は、腹の内に悪魔を飼っていた。もはや悪魔に先導されて道を往くしかなない。儂は、遅かった」


「ああ、お前は遅かった、お前の失態じゃ。だが、お前だけの失態ではない。儂もまた選択を誤った。動くべきだった、そうすれば、何かが変わったやもしれん」


声が、表情が、親友が悪ではないと告げている。

状況が大きく好転しているわけではない。

ただ、二人になった。

千年前、最強として名を馳せた二人が今揃った。


「それで、どうする?」


棚から取り出したボトルを机に置く。


「これはまた懐かしいものを」


「まだあと一本ある」


成人して初めて飲んだ酒。

美味かった。

とうの昔に製造を終了したウイスキー。


「それは残しておけよ」


「わかっている。最後の一本は、孫たちと共にだ」


二人は学園長室で酒を酌み交わす。

会っていない間の話にはとどまらない。

色褪せることのない千年の思い出話に花を咲かせる。

そして今の、これからの話へと移っていく。


「それでどうする?」


楽しく話す時間はもう終わった。

ここからは、真面目な話だ。


「儂等二人揃ったところで、戦うには遅すぎる」


「人質がいる以上は下手に動けぬな。ではどうする?」


ブラッディ・メアリーを見たノアは、そして学園に潜む者達を知るウィルもまた、勝てないとは言わなかった。


「儂等は学園の長じゃ。やることは決まっておろう?」


「そうさな。では、行くとするか」

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