第63話 アーテルvsルクス

「アーテル。どれくらい強くなった?俺に見せてみろ」


「少なくとも、先輩に勝てる程度には強くなりましたよ」


「ほう、煽りは相変わらずうまいじゃないか。乗ってやるよ、お前の距離だ」


攻めの形。

魔力の昂りが電撃を纏い体術で戦うと伝えてくる。


「後悔しますよ」


不敵な笑みを浮かべ手で口元を隠す。

息を吐き切り舌を噛む。

口の中に血が広がり、魔力が充満する。

爆炎が上がった。

開始の合図。


「暴れろ」


魔力を込めた言葉は、力を持つ。

炎を割って現れたルクスの身体に纏う電撃がルクス自信を攻撃し始めた。

魔術とは別種の力である言霊の魔術的再現。

その代償にアーテルの口内は傷だらけとなり血を吐き出した。

そして再現された言霊を喰らったルクスは自身の電撃による攻撃を歯を食いしばり呻き声をあげ耐えていた。

一気に距離を詰め、隙だらけのルクスを蹴り飛ばす。


「魔術なんか使うからそうなるんですよ。俺が相手なら魔力を使うような真似しちゃダメでしょう」


「暴走は治まってきた。一撃入れて煽るためだけに新作を披露したってのか?おかしいな、お前はもっと用心深かったと思うんだが」


「肝心なものはなにも見せていないので、存分に警戒してください」


「そうかよッ」


動き出しは同時。

だが、電撃による強化を行っているルクスの方が速い。

拳と拳がぶつかる。

そのとき、アーテルが拳を引いた。

腕を引き、ルクスの動きをそのままに、投げ飛ばした。

体格で勝っているルクスだが、その差を覆すほどの技の冴えがアーテルにはあった。


「ルクス先輩、諦めて近付かないように戦ってみたらどうです?あぁ、プライドが許しませんか。じゃあ」


先程ルクスの身体に触れた際に奪った魔力を爆発させた。

結界で難なく防ぐが、それは場を整えるための攻撃に過ぎない。

体術での戦い、先に破ったのはアーテルであるという、体術ではない、魔術を主軸とし戦える状況を作った。

それもわかりやすく。

相手に場を整えられて、魔術を使って良いと言われたから使うなど、プライドがあればなおさら使いたくなくなるというものだ。

ルクスは地を蹴った。

魔術戦を捨て、体術戦を選んだ。


「単純……」


……そう思わせてる。


左腕を前に構える。

腰を落とし呼吸を整える。

こちらに直進して来るルクスが突然しゃがんだ。

そしてその背後、ルクスの身体によって塞がれていた視界の先に、陣が、そして射出された鉄杭が見えた。

雷を辺りに撒き散らしながら突き進む凄まじい速度の鉄杭。

それは以前対処することが出来ず敗北した魔術。

だが、アーテルは鉄杭の勢いを完全に殺し、左手で掴んだ、防いで見せた。


「既に見ましたよ。もう効かない」


すぐさまルクスは距離を取る。


「先輩、領域っていうの見せてくださいよ。参考にしますから」


「…………堅牢なる守りは要らず」


それは詠唱。


「……激情を以て全てを打ち払おう」


ルクスの持ち得る最上の魔術。


「……門は既に開かれている」


魔力が昂る。


「……焼け……焚け……灼け」


魔力が収束し魔術へと変わる。


「……来たれ雷……世界を焦がせ」


アーテルは腰を落とし一気に距離を詰めた。

そして咄嗟に、攻撃を防いだ。

受け止めきれず吹き飛ばされるも無傷で着地をする。


「そうだ。そういうのを待ってたんだ」


輝く肉体からは雷が迸る。

それは辺りを無差別に襲う轟雷。

数度近付いてみたものの、防ぎながら進めるほどぬるくはない。

アーテルが笑みを浮かべる。


魔力が尽きるまで持久戦をするにしても、あの状態で動けるのならこっちが先に削られかねない。

こうなれば突破するには使う他に道は無いか。


「見せたくなかったですけど見せてあげますよとっておき。俺の魔術礼装の力」


フードを深くかぶり目が隠れる。

口はより一層笑みを深め、溜めるように体勢を低くする。

突然アーテルの魔力が増幅する。

それは大した量ではない。

それでもアーテルの魔力であるという点で見ればとてつもないものであった。

ローブにはおびただしい数の細い線が広がるように浮かび上がる。


「擬似神経接続・肉体強化」


地を蹴った。

地面を砕くような脚力。

それは圧倒的な力、アーテル唯人には過ぎた力。

身体に響く痛みを無視して雷の中へと飛び込んだ。

喰らうわけにもいかない雷を避けながらの体術戦。

圧倒的な手数の差をその経験と技術を以て避け、その上で反撃まで入れていく。

まだアルバ程、元の肉体程ではないにしても、今のアーテルの肉体は常人のそれを遥かに凌駕している。


「アーテル、やはりお前凄い」


突然ルクスが口を開いた。


「俺はこの魔術に、この肉体に、この速さになれるまで相当の時間を要した。今もまだ多少動けるようになった程度だ。だというのにお前はもうすでにこの速度の中で自由を手にしている。すごい奴だよ、お前は」


たくぺらぺらと、こっちに話す余裕はねぇっての。

肉体性能に差があるってのに強化後はさらに差が開いてる。

手数も速さも力も、身体で負けてるなら経験と技で勝つほかないだろ。

まぁ、アルバこっちは言霊、声に単純な体術で対応する最低でも音速とかいうふざけた奴らとやり合ってきたんだ、この程度の速さ止まって見える。

肉体で劣ってる事実は変わんないがな。


雷がアーテルの胸を焼く。

ローブが吹き飛ばされ、強化魔術は解ける。

雷を無視しルクスの首を左手で掴む。

左腕が雷に焼かれ服を消し飛ばす。

露わになった左腕にはおびただしい数の傷があった。

アーテルでも使うことが出来るようへたな治癒魔術は使わず大量の血を流しながら刻んだ魔術。

大量の血と少量の魔力。

発動には十分である。


「黒き闇は全てを呑む」


刻印が輝き魔術が発動する。

手の先から闇が広がっていく。

空間そのものを呑み込むように。

腰から取り出したナイフで、外した左肩から左腕を斬り落とす。

闇は見境なくルクスだけでなくアーテルまでも呑み込もうとする。

斬り落とした腕にナイフを刺し闇の中から引きずり出した。

腕は斬り落とされてなおルクスを放すことなく闇の外へと連れ出す。

腕が闇の外へと出たことで魔術は解かれ闇は消えていく。


「気絶してるみたいですけどちゃんと見ました?俺の魔術。こっちが本命ですよ」


「勝者……アーテル‼」


歓声の中、ナイフを捨て左腕を拾い上げるとふらふらと舞台を後にした。


「さあさあ、ローブと左腕を存分に警戒してくれたまえ」

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