第22話 学園五位

巨大な扉を開け、広い修練場へ入る。


「あれ、先客がいる」


修練場の中にはすでに二人ひとがいた。

誰かが入ってきたことに気づいたがたいのいい男が振り返る。


「おや、ルクスではないか。こんなところに何のようだ?」


「それはこっちのセリフだ。イージス、なぜこんなところにいる?」


さて、やつは敵なのか、それとも味方なのか。

まぁ、先輩の反応を見るに、仲は良さそうだがな。


「体育祭が終われば闘技会もある。私達が戦闘訓練をしていてもおかしくないはずよ」


「それもそ」


「それよりルクス、あなたが引き連れているのは……アストロちゃんじゃない」


ルクスの言葉を遮り、他の者達に視線を向ける。

そしてアストロを見つけた瞬間、一気に距離を詰めた。

誰も捉えられない速度、だが、たった二人が捉えていた。

アストロは手を繋いでいたアーテルの後ろに隠れ、アーテルは自身を盾とした。

アーテルに近付いた少女は、すぐにアーテルから距離を取った。


「君、強いね。名前は?」


「アーテルだ。俺は強くないですよ、リン先輩」


「あれ、知ってたんだ」


「見ればわかる。そんな動きが出来る生徒はこの学園じゃリン先輩くらいです」


最悪だな。

会いたくなかった。

会うにしても、ここでだけは会いたくなかった。


「そうかそうか、アーテルというのはこういう人物か。では……戦うとしよう」


だから嫌なんだ。


「お断りします」


「なんでだい?」


「絶対に勝てないからです」


「もっと具体的に」


「俺とリン先輩、イージス先輩も相性が悪すぎます」


話に混ざっていなかったイージスも名前を呼ばれ反応した。


「なぜ俺の名がそこで出てくる?」


「だって、イージス先輩も戦いたがってるじゃないですか」


「……隠せぬものだな」


「バレバレですよ」


イージスは声を出して笑った。


「では、理由の方を聞かせてもらおうか」


「先輩の護りを破る方法がないからです。先輩の強さは、あらゆる戦術、戦略を意に介さない堅牢な防御力にある。破る方法はただ一つ、純粋に力で勝つのみだ。その手段がない俺では、先輩の護りを破れない」


「そう、じゃあさ」

「けれど」


リンの言葉を遮り、アーテルは話を続ける。


「多対一にはなるが、仲間と共に戦っていいのなら、その護りを破れる」


「では、やってみるがいい」


イージスはそう言うと、自身の周りに透き通った障壁を展開した。


ふむ、複合結界といったところか、面倒だな。


アーテルたちの意識がつながる


《アーテル、素晴らしかったよ。私ではこうはいかない》


《褒めるな、大したことはしてないんだから。それより、わかってるな?》


《当然だとも。ナル、魔術の発動を急いでくれ、出来るだけ威力のあるものをたのむ。レージはナルを手伝いつつアーテルの近くに魔術を放ってくれ。私とアーテルは時間稼ぎだ。では行動開始》


アーテルの近くを炎が奔った。

それをアーテルはかき消すと、そのままイージスへと距離を詰める。

そして至近距離で爆発を起こした。

撒きあがる砂煙の中、一瞬何かが光る。

次の瞬間、二度目の爆発が起こった。

そして突然、ガクリとバランスを崩す。

だが立ち直すための地面がそこには無かった。

三度目の爆発で、高く打ち上げられる。

打ち上げられ、煙が無くなると周りの様子が見えてくる。

空中にも拘らず、目の前はアーテルがいた。

イージスは静かに目を瞑った。

アーテルが爆発を放つ、だが今回は、イージスの身体を障壁ごと吹き飛ばすことは無かった。

爆発が終わったことを理解し、イージスが目を開くと、まだアーテルがそこにいた。

氷の足場に立ち、手をこちらへ向けて、目を瞑り笑っていた。

瞬間、閃光がイージスの目に飛び込んできた。

呻き声をあげ目を押さえるイージス。

何とか視界が戻ってきたとき、氷の中に閉じ込められていた。

イージスが障壁を広げ周りの氷を砕いていく。

ぼやけた視界の先、ナルとレージが巨大な陣を完成させていた。

ナルの詠唱が終わる。

電撃奔る炎の矢、速度、威力、貫通力を重視した魔術。

それを見た瞬間に理解した。

このままでは耐えられないと。

イージスは防御力を向上させながら正面の防御力をさらに上げた。

だが、矢が放たれる前に、目の前に地面がせり上がってきた。

イージスから見えない場所、土の壁の反対側に、アーテルはいた。

壁が止まると同時、アーテルは壁に触れ全ての魔力を奪い取った。

ディアナが壁を維持するために使っていた魔力、それが無くなった壁は崩れていく。

それは先ほどまで修練場の地面だったもの、崩れる土の塊は、岩の如く硬かった。

それをアーテルは、奪った魔力で爆発を起こし、重なる障壁に向かって吹き飛ばした。

魔術を防ぐために作られた障壁故に魔力のこもっていない攻撃に対して弱かった。

魔力の抜き取られた土の塊は、新たな障壁を作るためのリソースを割かせる。

土煙の中、ディアナの魔術によりアーテルの視覚を共有している、ナルの狙いは正確さを増す。

放たれた魔術は、一瞬にしてイージスの下へと届いた。

魔術は難無くイージスの障壁を破りイージスに直撃した。

だが、イージスの身体を貫通することは無かった。


「やっぱり」


アーテルとイージスは同時に着地する。


「気付いていたのか?俺にとって最後の砦にして、最大の防御力を誇る障壁が、全身を覆う膜だということに」


「予想はしてた。確信したのは、氷を砕くために障壁を広げた時、少しだけ脆くなっていたから」


アーテルの回答にイージスは笑った。


「その通り、よく見ているな。一応聞いておくが、続きはするのか?」


アーテルはイフをちらりと見た。


「……いいえ、ここまでですよ。私たちはあなたの障壁を砕いて見せましたから、もうこれ以上見せるものも、見せられるものもありませんよ」


「強かだな。俺はこの二人の生徒会入りに賛成だ」


「生徒会の誰かが反対すれば生徒会には入れなくなるんですか?」


いつになくアーテルは大きな声で、飛びつくように質問した。


「いいや、今のは実力を認めたという意味での発言だ。既に来年度の生徒会は決定している。あまり下に見られないようにという牽制に近いものだ」


「そう…ですか」


脱力し、ため息を吐き、アーテルは身体の全てを使って残念がった。

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