第4話 茶会の誘い

授業がつまらない。

転生する前、一度受けている以上は復習という形になる。

まぁ、四十年もたてば内容は変わっているのだが、卒業する頃には今習っている内容に辿り着いたから、知識的に何かを習う必要もない。

そして習ったところで、この体じゃ習った魔術が使えない。

実に暇だ。

まぁ、歴史の授業でリブが紹介されているのは嬉しいのだが、俺まで紹介しないで欲しい。

すごく恥ずかしいから。

教師が生徒に語り聞かせるのを、眺め自分も聞かされ続けるなんて、恥ずかしさで死んでしまう。


授業が終わり、昼食の時間となる。


ようやく終わった。

歴史の授業はもはや拷問だ。


「あら、随分とお疲れみたいね」


教室から出る生徒がそろって避ける少女。


「ディアナか。いや、何でもないよ」


「そう、それじゃあ一緒に食べましょう。私お弁当を作ってきたのよ」


「一緒に食べるのはいいが、俺は自分の弁当があるし、施されるのは好きじゃない」


「あら残念。それじゃあ、中庭で食べましょうか」


ディアナは微笑むと、廊下を歩く。

ディアナの後ろを歩いていると、突然肩を叩かれた。


「お二人さん、仲良く昼食ですか?混ざってもいいかなんて、あ~いや何でもないです」


ディアナに睨まれ男は手を上げ眼を逸らした。


「何の用、レージ?」


そこにいたのは、先日イフと共にいた男、学年二位のレージであった。


「俺としては少し話がしてみたかったんだが、お前と喧嘩はしたくないので用件だけにしておこう。イフが茶会を開くとのことで、俺は招待に来た」


「どうする?」


「別に行ってもいいんじゃないか?」


「それは理解したうえでの発言?」


「俺は気にしないからな。ただディアナ、事実にまで反応する必要はないからな」


「そう、わかったわ。私たちはそのお茶会に参加します。日時については後で知らせに来なさい。もう昼食にするので」


「了解だ。時間を取らせて悪かったな」


小さくお辞儀をして、二人はその場を後にした。


……はぁ、本当に関わりたくない。

というかアーテルだ、ディアナを操るとかあれもあれで化け物だな。




「というわけで、ディアナたちは来てくれるそうだ」


「そうかい、それはよかった。けれど、確かに怖いね。まぁ護る気もないが」


「いや、仲間になるんじゃないのか?」


「相手の実力も図れない者と、これから友好関係を結ぶ相手を煽るような者、こんな愚か者たちを仲間にして何になる?」


「あ~確かに、それなら置物の方が幾分か便利だな」


「理解したのなら、我々も昼食にしようか」


「そうだな。準備はできてるぞ」


そう言ってレージは隣の部屋から暖かい料理を運んできた。




中庭の大きな樹の下、やわらかい芝生に座り、二人は弁当を食べる。


「はい、あーん」


「俺の分はある、俺に食べさせる必要はない」


「なんていうか、あなたってたまにつまらない事を言うわよね」


「別に面白くあろうとしていないのだから当然だ」


「そう」


二人は黙々と食事をする。


「ごt……」


あぶない、この国に食後のあいさつという文化は無かったな。

日本で暮らしていたせいで忘れていた。


「どうかしたの?」


「いや、何でもない」


「そう、ならいいのよ。それでアーテル、あなたはイフの狙いをどう予想する?」


………困ったな。

俺はあまり頭脳戦は得意じゃない。

というか、これが日常なのだろうか。

ここまで思考を巡らせて、相手の策を読み、交渉、頭脳戦をするのが日常なのだろうか。

俺が以前この学園にいた頃も、俺が知らなかっただけで他の生徒はこんなことをしていたのだろうか。

それなら、日常というのもまた大変だったのだな。


「選別、試験だ。仲間に値する人物であるかを見るためのな」


その回答に、ディアナは顔をしかめる。


「そう機嫌を損ねるな。これは俺たちの為にしていることだ」


「そうかしら、嫌がらせとしか思えないわ」


「俺のこととなると思考を停止させるのやめたらどうだ?その勘違いはイフが少し可哀そうだ」


「そんなの知-らない」


そう言ってそっぽを向くと、立ち上がってそのまま教室へと帰っていった。

それを見送り、アーテルはため息を吐く。


俺が気にしないのだから、ディアナが気にする必要もないというのに。

しかし、今のは少し日常っぽかった気がする。


頬を緩ませ歩き出したアーテルは、通路で人と肩がぶつかった。


「すまな、い―――――⁉」


謝罪の言葉を述べ何かに気付いたアーテルは通路を全速力で駆け抜け中庭に出る。

そのまま壁を足場に屋根まで駆け上り、空へ手を向ける。

そして向けられたアーテルの手の先で巨大な爆発が起こった。


やってくれやがったな。

あれが学園六位、ルクスか。

素晴らしい魔力操作だ、あの上に五人いるとは考えたくないな。




屋根の上に座り、次の授業をさぼろうとしていた生徒がその様子を見ていた。


「へぇ、思ったよりやるじゃん。けど、足りてない部分が致命的に足りてない。あれじゃあちょっと張り合いがないかな」

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