第2話 断片

 眼下は、火の海だった。

 彼の護るべき国が燃えていた。

 天の星が瞬く。

 死んでいった民の怨嗟が空を揺らしているのだ。

 護るべきときに、護り抜いてくれなかった王を呪う声なき声。

 ごとり、と足許で音がした。

 見れば、剣が地に落ちていた。

 片時も離すことのなかった剣を、握るちからさえ失った手。

 王家の剣

 幾十もの敵の鎧を貫き、幾百もの敵の首を獲ってなお、衰えることのなかった剣刃が輝きを失っていた。

 西暦九二七年五月十三日

 ピレネーの山麓にあったちいさな国が、歴史から姿を消した。

 夜の月が紅く染まる。

 国を、民を喪った王の慟哭の涙を、その身に映したかのように。


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