第40話

 天井で光る照明が切れかかっている。徐々に照度が下がりつつあり、部屋が陰気な雰囲気に包まれ始める。


 それでも、ルルの青色に光った目は変わらない。自分が人工物であることを主張するように、彼女はその輝く瞳で僕をじっと見つめていた。


「それでは、最後の問いに対する答えです」


 ルルは口を開く。


 僕は、できるなら、彼女からそれを聞きたくなかった。


 なぜかは分からない。


 僕が人間だから、勘がはたらいたのかもしれない。


 いや……。


「貴方も気づいていると思いますが、ウッドクロックには大きく分けて二つのタイプが存在します。一つは、自分がウッドクロックであることを自覚しているタイプ。そして、もう一つが、自分がウッドクロックであることを自覚していないタイプです。自覚、無自覚というのは、酷く主観的な問題ですが、貴方はそれに気がつきました。どうして、ウッドクロックにそれら二つのタイプが存在するか、分かりますか?」


 僕はルルの視線を真っ直ぐ受け留める。


 青い光線が僕の瞳を貫いた。


 僕は答えない。


 けれど、それは、なんとなく分かっていた。


 そう……。


 リィルと出会ったときから、いつかこうなることは分かっていたのだ。


「お答えにならないので、私の方からお伝えします」ルルは言った。「ウッドクロックにそれら二つのタイプが存在するのは、そうなるように設定されているからではありません。きちんと自己と向き合った個体が、自分自身で思い至ったからにほかならないのです。つまり、リィルは、自身の行動を客観的に分析して、自分がウッドクロックだと気がついた。しかし、ベソゥにはそれができなかった。なぜなら、彼の場合、設計の段階で存在した不備によって、定期的に記憶が改変されてしまうからです」


「自覚は、しなくてはいけないものですか?」


「その質問にはお答えできません」


「どうしてですか?」


「貴方が決めることだからです」


 コーヒーを喉に通そうと思ったが、カップはすでに空だった。


 部屋の照明が完全に落ちる。


 暗闇の中でルルの瞳だけが浮遊していた。


「ウッドクロックは、全部で四体存在します。それでは、その四体とは、具体的に誰のことなのか?」


 ルルは一人で話す。


「昔、テュナと呼ばれる少年がいました。彼はウッドクロックでした。ですが、最も致命的な設計ミスによって、早くに命を落としました。これで、リィル、ベソゥ、テュナの三人がウッドクロックだということが分かります」


 僕はもう何も話さない。


 いや、話せなかった。


 ルルは、最後の審判を告げるように、僕に言った。


「そうです。残された最後の一体は、貴方です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る