第7話 作れる人
月曜日の休み時間。真也の机にて。
「真也って、プラモデルは作るほうかい?」
突拍子もなく、僕は聞いてみた。次の現国の準備をしていた真也は、はたとその手を止め、片眉だけ持ち上げた変な顔をして言う。
「なんだよ、藪から棒に。プラモ?」
「うん、そう、プラモ。実はだね」
話は一昨日、土曜日にまでさかのぼるのだが、僕の母方のいとこがプラモデルに興味を持ったとのことで、なぜか僕に救援要請が来たのだ。僕の親戚には女性が多く、その影響か男性らしい趣味をもつ男性も少ない。僕の父の趣味はペットの鳥の世話だし、祖父の趣味は少女漫画の収集である。プラモの作り方なんて知っているわけがない。そこで、いとこに最も歳が近く──そのいとこは小学5年生だ──、若い僕ならもしかして、という理由で話が来たのだろうとは思うのだが。
残念ながら、僕も鵤家のご多分に漏れず、プラモデルには明るくない。作ったことなど当然ないし、そもそも収集癖がないので良さもいまいち理解できない。
しかし、真也ならもしかして……と思って、冒頭の質問に至るわけなのだが。
「うーん、プラモ、なあ……」
真也の反応は芳しくなかった。腕を組み、天井をあおいでいる。
「やったことない? 真也、ロボットアニメとかけっこう好きじゃないか」
「あのな。アニメが好きだからそういうのも見るけど、別にオレはロボット好きってわけじゃないぞ。手先が器用なわけでもないし」
「頑張りなよ、和菓子屋の息子」
「やかましい」
真也はじとっとした目で僕を睨みつけてきた。ひょいと肩をすくめてかわし、それならと話を続けてみる。
「君が直接、じゃなくてもいいから、誰か詳しい人とかいないかな? 正直、僕らの一家じゃ手に余る問題なんだよ。いとこは突然変異種なんだ」
「そうだなぁ……」
顎に手を当てて考えてくれる真也。友達の多い人だから、一人くらい思い当たる人物がいるだろうと高をくくった僕は、安心してその様子を見ていた。
と、そんな僕らの背後からお声がかかった。
「何してるの? 長谷寅君が真剣な顔で考え事とか、珍しい」
「やあ、栗花落さん。これには訳があってね」
栗花落さんの失礼な発言は考え事中の真也には届かなかったらしく、うんうん唸る真也をよそに、僕は今回の経緯を栗花落さんに説明した。
事情を聞いた栗花落さんは、一つ大きく頷いたあと、あっけらかんと言った。
「わたしが行こうか?」
「えっ」
「えっ」
僕と真也の声が見事にハモる。それはあまりにも想定外な提案だった。
驚く僕らの様子を見て、栗花落さんは嬉しくなったのかニマリと笑い、わざわざ両手を腰に当てて偉そうにふんぞり返ってみせた。
「小学生の子なんでしょ? 素組みくらいなら教えられると思うよ、わたし。なんたって一人遊びのプロだからね!」
「胸張って言うことじゃねえだろ。っていうかプラモなんか作ってたのか? 見たことないぞ、オレ」
「邪魔になるから保管してないんだ。作ったらすぐ友達にあげちゃったりとかで」
なんとまあ。助け船は意外なところにあるものだ。真也の言う通り栗花落さんにプラモデルの印象など皆無だが、口振りからするに嘘をついているわけではないだろう。僕としても、栗花落さんになら安心していとこを任せられる。
「じゃあ、お願いしてもいいかな? 日程はある程度合わせられるけど」
「家の手伝いがあるから、土日のどっちかになるかな。ちょっと相談してみるね、決まったらまた教える」
「よろしく。真也も、考えてくれてありがとう」
「あいよ」
トントン拍子に話が進み、どうやら解決の日の目を見そうである。いやはや、真也に渋い顔をされたときはどうなることかと思ったけど、持つべきものは友達だね。今度、パスケの売上に貢献することにしよう。
休み時間終了のチャイムが鳴り、僕はいそいそと自分の席に戻った。我が事ではないながら、実行の日には、完成形を目当てに同行するのもいいかもしれないなと思いながら。
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