48話



 冬休みが終わって、三学期が始まった。



 ひなと澄乃は、二学期以上に毎日楽しくしてる。



 学校ではいつも通りの間森ひなしてるけど、勉強会が終われば澄乃だけが知ってる子供の間森ひなになる日々。



 今日は澄乃がひなを、ファミレスに連れてきてくれた。



「ひなちゃん、好きなの選んでいいからね? この前の抜き打ちテスト、頑張ったご褒美」



 この前の英語の授業で抜き打ちテストあったんだけど、二人でクラス一位と二位。



 もちろんトップは澄乃だけど、こうしてご褒美をくれるなんて本当に優しい。



 でも、それってひながいい子で、ちゃんと澄乃の言う事を聞いてるからだよね。



「うんっ!えっと、これ食べたい!」



「イチゴとチョコのサンデー……。うん!おいしそうだね。でも、こっちもいいと思うよ?同じだけどおっきいね、パフェもあるよ?」



「え、おっきいの?」



 おっきいの食べたいけど、こんなのはわがまま言いすぎじゃないのかなぁ?



 だから、ひなはちっちゃいをのちゃんと選んだんだけど。



「うん、こっちなら大好きなイチゴとチョコお腹いっぱい食べられるよ。そっちが、いいんじゃない?」



「えっと、いいの?」



 うーん、でもやっぱりわがままは良くないよ。



 ちゃんとわがままじゃない大人にならなきゃいけないのに、ひな。



「ひーなーちゃん?お、や、く、そ、く」



 それでひなは、はっと気が付いた。



 この前ひなは、わがままは、我慢しないって澄乃と約束したのを思い出した。



「あっ、うん!こっちにする!」



 ひながそうちゃんと言うと、澄乃は嬉しそうに笑顔で頷いてくれた。



 じゃあ、やっぱりこれで、いいんだ。



 よかった。





「んー……」



 目の前に置かれたパフェを見て、ひなは固まっちゃった。



 キラキラして甘そうで、すっごくおいしそう。



 だけど、見てる内にうずうずしてきちゃった。



「ひなちゃん、どうしたの?もったいなくて食べられないの?」



「違う、その……」



「あ、わかったー。ほら、あーんして?」



 あたしをちらっと見ると、澄乃は嬉しそうに笑ってパフェスプーンでパフェのイチゴをあたしの前に持ってきてくれた。



 すごいなぁ。



 澄乃はあたしの思ってる事、ぜーんぶ分かってくれるんだ。



「うんっ!あーん」



「どう?」



「すっごくおいしい! えへへ、澄乃も食べて?」



 ひな一人で美味しいを独占するのは嫌だし、澄乃もきっと喜んでくれる。



 もう一個のパフェスプーンで、同じようにイチゴを澄乃に持っていく。



「優しいね、うん。じゃあ……ん、甘ずっぱくておいしい。それのひなちゃんが食べさせてくれたから、もっとおいしいな!」



 澄乃はくすっと笑ってくれて、ひなも同じように笑顔になった。



 食べてくれたのもだけど、ひなが食べさせてくれたからって言ってくれたのが一番嬉しかった。



 澄乃とっていうよりも、こうやって自分勝手に気持ちに素直に何かやるって本当に楽しい。



 本当にこんな時間を捨ててたなんて、ひな本当におバカさんだったんだなぁ。





「なんかさ、間森変わったよね。春に比べて」



「え?変わった?」



 教室でいつものようにみんなと話してたら、友達に急にそんなことを言われた。



 何か変わった事と言えば、澄乃の前では子供でいるようになったのと秘密の時間が出来たことだけど学校では何も変えてないはず。



 だから、あたしは何を言われてるか分からなかった。



「変わったよ。前はなんかつんつんしてたし、どっかあたしたちと距離あった」



「そうだね、今はなんか肩の力抜けたっていうか近づきやすい。前より色々話してくれるようになったし、何より笑うようになったし」



「え、ちょっと待って。あたし、笑ってたよ?」



 確かにみんなと同じような話をするようになって、距離は縮まったけど笑ってなかったはずはないはず。



「いや、なんか冷めたっていうか……うーん、上手く言えないけどなんか変だったんだよ。でも今はそれないからさ、あたしたちといて楽しんだって思えるから安心してる」



「あと、気が付いてないかも知んないけど、みんなも変わって嬉しいみたい」



「え?」



「前も間森の言う事ってすっごく正しいし、聞かなきゃっていう空気はあったよ。しっかり者だしはっきり言うしさ。でも、なんか破ったらまずいんじゃ?っていうのあったんだ。でも今の間森なら、本当にみんなのこと考えてるんだなーって思ってるから協力もしたいしってみんな思ってるよ」



「まぁ、うちの学校クラス替えないみたいだから、これからも頼むぞー?ひな」



「あは!任せてよ。みんなが楽しい高校生活になるように、あたしなりにやってみる。みんなが協力してくれれば、もっと楽しくできるからよろしくね」



 あたしはこのクラスのちゃんとした、羅針盤になれそう。



 だけど、一人じゃ無理。



 澄乃は絶対必要だけど、クラスのみんなだって必要。



 みんながあたしっていう羅針盤を信じてもらえるようにあたしはしなきゃいけないし、同じようにみんなもあたしを信じてくれなきゃダメなんだから。



「あれ?怒んないの?」



「なんか、あたしが怒るようなこと言った?」



「いや、ひなって名前を呼ばれるの嫌いなんじゃなかったかなって……」



 あたしは笑顔で顔を振った。



 そんなことない、今はこの名前が本当に心から好きって言えるから前みたいに怒ったりなんてもうしない。



 だってこの名前は、あたしの一番の特別な人があたしらしくて可愛いって言ってくれた大切な名前なんだから。



「うんん、本当は好きだったんだけど、ちょっと恥ずかしくって。でも今は大丈夫になったから、遠慮なくひなって呼んでもいいよ」



 ぽかんとするみんなを見た後、あたしはちらっと澄乃の方を見た。



 澄乃は『よくできました』っていう感じの笑顔を、あたしに向けてくれていた。

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