49話
「ねぇ、澄乃ぉ」
「どうしたの、ひなちゃん?」
勉強会が終わった後の、秘密の時間。
ひなだけの特等席の膝の上に座って、澄乃にあたしはきゅっと体を寄せていた。
「あのね、ひなね、どーしても、許せないことがあるの」
「我慢しちゃダメって言ったから、こうやってお話ししてくれたんだね。ありがとう」
優しく頭を撫でられて、ちゃんとありがとうって言われると本当に素直になれる。
「郡司先輩、あたしどーしても許せないの。あの人が学校にいるってだけで、嫌なの」
「そうなの?」
「だって、だって、澄乃の人生ぐちゃぐちゃにしたんだよ? それなのに、あの人のした事みんな知らないし、先輩は平気で学校にいるんだよ?そんなの、ヤダ!」
ひなと出会わなかったら、澄乃の人生はきっとひどい事になってた。
もっともっとひどい事させられてたって思うと、あたしは今も平気でたくさんの女の子といる郡司先輩っていう人間が許せなかった。
今だって人気者なのは変わりないし、澄乃を捨てた時以上にたくさんの女の子が周りにいる。
澄乃が身体を売ってまで渡していたお金が、今もあんなごみのような人が作るハーレムみたいなのに使われるって想像するだけで、あたしはイライラしちゃう。
廊下で名前が聞こえるだけでも、キレそうなんだから。
「うーん、あたしはもう興味もないしどうだっていいんだけど……。ひなちゃんは、許せないんだね?」
「もちろんだよ! 澄乃にひどいことしたのに、平気にしてるなんていや!」
ぷぅっと頬を膨らませて怒ると、澄乃は目を細めてあたしの頭をまた撫でてくれる。
「そんなに許せないんだ。あの人の人生、ぐっちゃぐちゃにしてもいいってひなちゃん思ったんだ」
「うん! だって、あたしの大切な澄乃にあんなひどいことしたんだもん、当然!」
あの人がいるとまた澄乃に何かしてくるかもわからないし、他の女の子だって心配。
――ってのは、表向き。
本当のとこは、あたしの大切な澄乃にあんなことさせたんだから、あの嘘つきでみんなを騙してるようなゴミの今の幸せをぐちゃぐちゃにしたいなって思っただけ。
それに、悪いことしてるんだからあたしたちが何したって悪くないもんね。
だってあの人がいなくなれば、みんなもあたしたちも、もっと幸せになれるもん。
だから、これってわがままでもなーんでもないもん。
「分かった、じゃあひなちゃんは――して?」
「それだけで、いいの? もっと、あたしにできる事ないの?」
澄乃がひなに頼んできたのは、本当にちっちゃくって簡単なこと。
それくらいで、あのゴミの人生、本当にぐちゃぐちゃにできるのかな?
「大丈夫。ひなちゃんがやることに、意味があるんだから。澄乃はね、ひなちゃんの事信じてるから、お願いしてるんだよ」
「うん!わかった!」
そうだよね、澄乃を疑っちゃだめだ。
澄乃の言うとおりにすれば、ぜーったい間違いない。
澄乃はひなの幸せの為なら、なんだってしてくれる。
だから、今回だってあたしの幸せになる最高の結果を出してくれるんだ。
「あははっ!楽しみだね、澄乃っ!」
そう思うと、あたしはいつの間にか笑ってた。
澄乃はそれに応えることはないけど、優しい顔で頭をいつになくゆっくり撫でてくれていた。
じゃあ、ひなの今のキモチ、間違ってないってことだよね。
間違ってたら、澄乃怒ってくれるもん。
近いうちに澄乃をめちゃくちゃにしたあの郡司晃っていうゴミの作り上げた嘘だけで作った幸せな世界が、ぐちゃぐちゃになるんだよねー。
あはは、本当に楽しみっ。
ひなが澄乃に頼まれたのは、噂を流す事。
郡司先輩が幼馴染の女子生徒に無理やり男性とデートさせて、その時のお金を使って実はあんなにも遊んでいたんだ。
この、澄乃が実際されていたことを噂としてあたしが流すと、それは一瞬にして全校中に広まった。
みんなにとっては根も葉もない噂だったけど、あっさり広まったのには理由があった。
誰もがどこかで、怪しんでたし妬んでいたってこと。
そりゃそうだよね。
男子としては女子にちやほやされてるってだけで嫉妬の対象だろうし、女子もどこか怪しいって思ってたらしい。
特に告白して断られた子や、一度はあのハーレムに入ったけど追い出されちゃった子たちには効果は抜群。
澄乃がひなに流してっていうのには、ちゃんと理由があった。
それは前に澄乃が言っていた『言葉は誰が言ったかが重要ってこと』だった。
今のひなはクラスだけじゃなくて、先生や上級生である先輩たちの信頼も勝ち取っていたから出所がひなならみんな信じてくれるっていう事だったみたい。
その結果がこんなにもすごく出るなんて、やっぱり澄乃を信じて正解だったしすごいって思う。
噂を流して一週間でハーレムっぽいあの空気はなくなって、学校でもひとりぼっちになった。
女の子たちもあのハーレムにいることでいい事はあったろうけど、そのお金の出所が犯罪で得たお金だって言うなら話は別。
うちの学校は一応進学校だから、進学のために少しでも悪い噂は回避したいって誰もが思ってる。
だから、この噂が事実だったら怖いってみんなすぐに離れちゃったみたい。
先生たちの評価も、がた落ち。
先輩は結構先生たちの中でも問題児扱いだったけれど、結果も出してて人気も力もあるしで手を出しにくかったらしい
その時に舞い込んだこの噂のおかげで、先生たちもやっと動けたみたいだった
だけど、ひなはまだ許してない。
まだ、あの人は澄乃に比べてぐちゃぐちゃになってないもん。
もっと、もっと澄乃の味わった苦しみをあの人には味わってほしいんだから。
「でも、澄乃はこれ以上はあたしに任せてって言ってたしね。ひなのすることはここまでだよね」
放課後の教室で、あたしはくすっと笑っていた。
いつも側にいるはずの澄乃は、今いない。
さっき郡司先輩に呼び出されたんだけど、澄乃は
『予想通り。じゃあ、ひな。約束、守ってくるからね』
って、ひなの頭を撫でると教室から出ていった。
ひなのお願いをかなえてくれるために、
澄乃、どんなふうに
でも、どんなにめちゃくちゃになっても、ひな悪いなんて思わないよ?
白雪澄乃ていう素晴らしい人間を、あんな扱いしてたんだから。
何をされても、どんな目にあっても全部が壊れちゃえばいい。
「あははっ!あははははっ! 今日、こわれちゃうんだ、
誰もいない教室だけど学校なんて関係ないくらい、ひなは楽しそうに笑っちゃった。
でも、仕方ないよね。
楽しいって感情、抑えたって仕方ないもん。
それは、澄乃があたしに大人になるために教えてくれた事だから正しいことだもんね。
「あははははっ!」
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