47話 side 白雪澄乃

 あははっ!今までの間森ひなって人間は全部壊れちゃったけど、これでいいよね?ひなちゃん、こーんなにも幸せそうなんだもん。



 腕の中でバスローブに包まれて静かな寝息を立てているひなちゃんの頭を撫でながら、あたしはそんなことを思った。



 ひなちゃんを大人にも子供にもなれない中途半端なオトナコドモにしていたのは、子供に対する憧れ。



 大人になりたいが故に子供というものを毛嫌いしていたけど、そもそもろくに子供というものを過ごしていないから憧れというものを人一倍抱えてしまっていた。



 つまり、大人になるための基礎であり準備期間である子供時代を、ひなちゃんは子供として過ごしてない。



 あたしが大人になりたいって渇望しているひなちゃんの心を基礎から全て壊すと決めた理由は、子供に憧れて素直になれないなら今からでも子供にしてしまえばいいということだ。



 そしてその為には、それが正しいことだって思える言い訳を作ってあげること。



 その準備として、あたしはコツコツといろんなことを調べておいた。



 大嫌いな誕生日は、学校の手伝いをしていた先生にさりげなく聞いた。



 おおよそ、嫌いとか話してくれない理由はそんなだろうなって予想してたけど大当たり。



 ちなみに、あたしの一か月後だったいうのは、本当に偶然。



 あたしだって神様じゃないんだから、そこまでの運命を操作はできない。



 だからこそ、本当に運命の人だっていう確信になって完全に計画を進めることに迷いがなくなったんだから問題ない。



 ひなちゃんの家族に、小さい頃どんな子だったかも聞いた。



 しっかりと信頼を積み重ねていたおかげで、ひなちゃんに聞いたら絶対教えてくれなそうなことまで聞くことができた。



 誕生日の裏付けも、ここでしっかり取れたのも大きかった。



 予定外に早まったデートになった時に気になっていた表情も、凄く役に立った。



 他にも今までの積み重ねはしっかりと効果があったようで間森ひなという、間違って積まれた人間の心はこうもあたしの予想通りにあっさりと全て壊れた。



 結果的に12月24日は、間違った間森ひなの命日で間森ひなの新しい誕生日になった。



 なんてすばらしい日なんだろう、12月24日は。



 まぁ、クリスマスイブって実際のイエス様の誕生日前夜ではなく、誕生を祝う日の夜なんだけどね。



 でも、特別な日だと言うのは変わりない。



 ここまで基礎まで完全に壊したら、心の積木は基礎だけじゃなくて全部あたしが本当に自由に積むことができる。



 この後、ひなちゃんは刷り込みの雛のようにあたしのことを本気で信じる。



 でも、それに何の問題があるのだろう。



 あたしの全てが大人になりたいってひなちゃんの夢を叶えることにつながって、それがひなちゃんの幸せにつながる。



 大切の人の幸せならあたしはなんだってできるし、していいんだからね。



 だって、ひなちゃんは今こんなにも幸せにしているのが証拠。



 そして、これからも幸せだ。



 だって、ひなちゃんの望んだ『大人』っていうものになる心の積み木を、あたしが全て積み上げていってあげるんだから。



 あたしはそれを許される、特別な人間。



 ねぇ?ひなちゃんには、あたしの全てを注いで幸せになってもらうよ。



 あたしの作った心の基礎とその上に積まれた心の積み木を持った間森ひなちゃんが、永遠に幸せになれるようにしてあげるから。



 これからひなちゃんは自分で決めてるって思うだろうけれど、それは全部あたしの思い通りになっちゃうようにしてあげる。



 なんでそれが重要なのかというと、あたしの操り人形みたいになっていたらそれは端から見れば大人じゃない。



 操り人形のようであったり、あまりにもあたしとお揃いになってしまえば、あたしをコピーやトレースすることでしかできない意思のない子供と見られてしまう。



 だから、間森ひなっていう薄膜のような『個』を作りつつ、その内側はあたしの作り上げた間森ひなという人間である必要がある。



 外からは完璧な大人、でも中身はあたしが居ないと生きていけないような子供かもしれない。



 あはは!最高だ。



 ひなちゃんの生まれつき持っている人を惹きつける強さは、あたしにはない物。



 ひなちゃんは、高校でも、大学でも、みんなの中心の居続けて、未来で素晴らしい事を成し遂げて後世に残るような人物になる可能性だってある。



 でも、そのすぐそばにあたしが居ることが出来る。



 ああ、なんてあたしはなんて幸いな人間なんだろう。



 必ずひなちゃんを自分の意思を持っていて自分で物事を解決できる、まさに大人っていう存在にしてあげるよ。



 だけど、重要なことは全部あたしの思い通りの選択を選ぶけどね。



「これで、幸せになれるよ、あれだけ渇望した大人に必ずなれるよ、ひなちゃん。違うか、あたしが必ず幸せにしてあげるし、大人にしてあげるよ。全ての力を使って、どんな手段を使ってもね」



 赤ちゃんみたいに指までしゃぶって寝息を立てているひなちゃんの頭を、優しく撫でる。



 これから、あたしの全てを懸けてあんなにも渇望していた『大人』になれるんだからひなちゃんは世界一幸せだよね。



 今から今持っている全てと、これから得ていく全てを使って作り上げていくだけ。



 あたしたち二人が永遠に幸せになれる、そう――『』を。

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