43話
今日は12月24日。
学校は終業日で、明日からの冬休みを楽しみにしてる空気が教室中を包み込んでる。
だけど、あたしの気持ちはそんな空気なんて構わないように重く暗い。
それを示すように、白雪さんに控えるように言われていたため息が朝から止まらない。
「間森―、今日本当に来ないの?」
「うん、止めとく……」
今日はいつものみんなに二学期終った事と、クリスマスイブってことでいろいろ遊ぶ会に誘われたのだけれどあたしはそれを断っていた。
何せ、今日はあたしにとって嬉しくない日だから。
微妙な上がり切らない気分のままで、みんなが楽しくやってる場所に無理して参加はしたくない。
前だったら参加したけど、今では無理は良くないって覚えたから断る事にした。
みんなもあたしが無理して付き合ってたのを薄々気が付いてみたいで、ちゃんと断わってくれる今の方が気楽だよって言ってくれている。
この変化も、白雪さんのおかげなんだけどね。
「でも、白雪さんは知らないよね。この気持ち」
あたしが憂鬱になってる原因を、あたしは白雪さんにすら話していない。
さすがにこれは子供すぎるし、いくら特別な相手とはいえ恥ずかしい。
今日は世間ではクリスマスイブ。
そして、あたし間森ひなの誕生日。
何の不幸か、あたしの誕生日は今日12月24日。
誕生日のお祝いはいつだって、クリスマスのお祝いと一緒。
ついでみたいなのが嫌で、あたしの誕生日ってことだけでお祝いしてほしかった。
でもそんなわがままはダメだから、無理やりにでも世界がみんなあたしの誕生日を祝ってくれてるなんて思おうとしたけどそんなの無理。
いつしかあたしは、大人に近づいて嬉しいはずの誕生日が大嫌いになっていた。
でも、少し違う感情もある。
白雪さんのせいだ。
誕生日はあたしが生まれた日だし、どうしても意識する特別な日。
叶うなら、今日という日を白雪さんと出かけたりしたい。
学校も終わったし、いくら特別でも冬休みになったら毎日会えるって訳じゃない。
誕生日っていう特別な日に、二人きりでたくさん一緒に居たかった。
だけど、あたしはその気持ちを伝える勇気が無かった。
断わられるのが、怖かったから。
大切だから、一番の特別だからこそ、もし何か大事な用事があって断られるかもしれないって思うと、言い出せなかった。
だって、今日は世間ではクリスマスイブ。
白雪さんももしかしたら、今日くらいは帰ってくるかもしれない家族と過ごすかもしれないし、そうならその為にいろいろしなきゃいけないはず。
あの白雪さんが、家族との大切な時間の準備を疎かにするはずがない。
それとちょっと気になってるのが、あたしとの勉強会を毎日じゃしなくなったこと。
『あたし、ちょっとどうしてもやりたいことがありまして。しばらく土日だけは空けてください。わがままなのはわかってますが、お願いします』
11月末に、いつもの秘密の行為をした後で本当に申し訳なさそうに白雪さんは頭を下げた。
もちろん、あたしは白雪さんの一番の特別だけどやりたいことあるなら止める権利なんてない。
だから、もちろん大丈夫って返したんだけど、心のどこかで不安が渦巻いていた。
もしかして、あたし以外に会ってるんじゃない?
それって、別の特別な人が出来そうだから?
白雪さんにそんな思いを少しでも持ったのが最後、それからの土日は不安で何も手につかなかった。
もし、そんな事になったら、あたしは何としてでも引き止めたい。
白雪さんがいない毎日なんて、あたしには考えられなくなってた。
スマホの連絡先くらいのつながりじゃダメ。
何か、あたしがずっと白雪さんとつながって一緒に居てもいいって何かが、証拠が、欲しくなっていた。
不安を紛らわせるように、あたしはそっと首を撫でる。
この前の秘密の行為で出来た傷痕は無くなって、もうきれいな首になってる。
最近、白雪さんは爪痕をあたしの首に残すようになっていた。
それは、ちゃんと行為をしたっていう証拠を残してほしいってあたしが頼んだから。
それを見たり撫でると、あたしは安心するようになっていた。
「白雪さん……あたしを見てよ……あたしだけを……」
今日は最近ではもういつ以来ってくらい、白雪さんはあたしと一緒に帰らない。
『一人で行く場所があるので、申し訳ないです』
丁寧に頭を下げると、珍しく小走りで教室を出ていった。
やっぱり、あまり会えない家族との約束関係の何かかもしれない。
そう自分を納得させたいけど、身体のざわつきは収まらない。
そのまま、あたしはいつもより重い気持ちで教室を出た。
家に帰り着いたあたしは、そのままベッドに倒れこんだ。
今は、外から絶対に出たくない。
外に出ればクリスマスで浮かれている街と、人たちをどうしても見ちゃう。
あたしにとっての特別の大きさとは違う、もっと大きな特別でみんな楽しそうにしているはず。
そんな空気の中には、居たくなかった。
両親は今日も仕事で、今まだ家に居ないのは救い。
思いっきり大きなため息を吐いても、何をしてもと誰にもとがめられない。
「会いたいよ……白雪さん。あたし、今日、誕生日なんだよ?16歳になるんだよ?」
そうは言っても、無理。
あたしは、白雪さんに誕生日の事を一切教えていない。
それに今日は世界中のみんなが、クリスマスイブっていう理由で楽しんだりお祝いをする特別な日。
そんな日にあたしだけをお祝いしてほしいだなんて、わがままは許されない。
だけど、白雪さんならこんなわがままなあたしも受け入れてくれるはずだ。
だって、どんなあたしでも受け入れてくれるって約束したんだから。
でも、伝えればって後悔しても、もう遅い。
今日もいつも通り、仕事から帰ってきた家族と過ごすそんなクリスマス兼誕生日になるんだろうな。
「もう、いいや。え?」
現実から逃げようとしていたあたしを引き留めるように、スマホから聞こえたメッセージアプリの着信を告げる無機質な電子音。
嫌々に掴んだスマホの画面を見て、目を疑った。
『白雪澄乃』
白雪さんは、めったに電話や連絡をしてこない。
連絡をするのはあたしばっかりで、白雪さんから連絡が来たのはあたしが約束を破って帰った時と、パニックを起こして学校を飛び出したときの二回だけ。
だからこれが、三回目の連絡。
「白雪さん、どうしたのかな?」
連絡ってことはよっぽど重要なんだから、あたしの背筋はいつの間にか伸びて意識もはっきりしていた。
メッセージは絵文字も何にもなく、文字だけでこう書いてあった。
『突然、失礼します。今日の午後9時、駅前の鐘の前でお待ちしています。もちろん、御用があったら優先しても構いません』
白雪さんらしいちょっと変わった文面で書かれていたのは、あたしへの呼び出しだった。
呼び出してまで何か伝えたいことがあるのかな、と思ってあたしは今日が何の日か思い出した。
クリスマスイブ。
特別な相手にプレゼントくらい渡したいだろうし、その場所を駅前の鐘の前なんておしゃれな場所で渡すなんて、やっぱり大人。
だけど、それはあたしの誕生日祝いじゃないんだよね。
知らないから当然だけど、届いたメッセージをあたしはなぜか喜べなかった。
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