42話

あの夜から、あたしと白雪さんには秘密の時間が出来た。



 それは不安になるとあたしは白雪さんを呼び出して、始まる首を絞めて生きてる事を教えてもらっている時間。



 学校のトイレ、校舎や体育館裏、図書館の隅。



 ともかく、ほぼ毎日人目につかないところに呼び出しては不安をかき消すようにしてもらうようになっていた。



 そのなかで白雪さんは、一つだけルールを提示した。



『本当に止めてほしい時は、両腕を握ってほしい。その代わりそれが無ければ、あたしの判断なるけどできる限り続ける』



 それは、やりすぎで事故にならないようにという白雪さんの優しい配慮だった。



 あたしとしても、白雪さんに迷惑はかけたくないし、事件になってしまうのは絶対に嫌だった。



 この秘密の時間の間、あたしは本当のしがらみ全てから解放されている感覚だった。



 やらなきゃいけない事、普段のあたしがみんなを偽っていることの罪悪感、将来への不安。



 そんなもの、全部忘れることができる大切な時間になっていた。



 もちろん、何か誤解されるのは嫌だから、周りの環境には万全に気を付けている。



 その結果か分からないけど、あの不安だらけだった期末テストではあたしが学年8位で白雪さんが7位になっていた。



 あたしを追い抜いていくあたりは白雪さんの意地だったみたいだけど、あたしにとっては当然の結果。



 でも、白雪さんは結果を受け取った途端



『あたし、今回教え方ダメでしたか?分からない事、本当はあったんじゃないですか!?』



 って、かなり不安そうに詰め寄ってきたので、あたしと周りが止めたくらいだった。



 みんなも白雪さんに勉強を教えてもらいたいって言ってたけど、その誘いを全部断っていた。



 理由はいつも決まって『あたしは複数を教える力ないですから。間森さんで手いっぱいですよ』だ。



 なんだかあたしが出来の悪いように見えるけど、実際はそうじゃない。



 白雪さんは本当に一人にしか全力を注げないし、今の勉強法だって夏からずっとあたしにつきっきりでやってくれたからここまで成果が出ている。



 ここにもう何人もってなったら、白雪さんだって倒れちゃうし自分の勉強の時間がなくなっちゃう。



 ただ、何もしないっていうのは嫌みたいで相談相手の困ってる事や分からない事を聞いて、傾向と対策をアドバイスをしてるみたいだった。



 聞いた子は、結構できるようになってるみたいだし、合わなかったらその都度色々変えてみるようにしているところは白雪さんらしい。



 それを見てると、あたしは誇らしくなっちゃう。



 だって、そんなすごい白雪さんをあたしは独占できるし、誰も知らない事を共有してる、一番の特別な存在なんだって。



 冬になって学校の中も、少しずつ変わってるみたいだった。



 あたしはクラスで本当に中心になって、みんなをまとめるようになっていた。



 委員長って訳じゃないんだけど、あたしの言う事ならっていう感じでみんなは納得してくれる。



 みんなの羅針盤に少しはなれたのかなって思うけど、それは全部白雪さんが後ろに居てくれるからだった。



 あたしの後ろにいつも白雪さんが居てくれるから、大丈夫。



 だから、前みたく一人で意地を張って無理をしなくても、みんなに接することができるようになっていたような気がする。



 少しでも迷ったり疑問を持ったりすれば、白雪さん相談するようになっていた。



 その度にすっごい的確な解決策を出してくれて、そのどれもがうまく行っていた。



 あたしの代わりになればいいのにって言うと、白雪さんはいつも首を振っていた。



『みんな、間森さんだからちゃんと聞くんです。それは、間森さんがずっとみんなに対して大人としての信頼を積み重ねたからです。あたしが言っても聞いてくれませんから。誰が言うって世の中では重要ですからね』



 あたしと白雪さんなら、本当に何でもできる。



 クラスの雰囲気だって、当然学校だって、きっともっと良く出来る。



 それだけじゃない。



 あたしたち二人は、お互いの力で必ず幸せになれる。



 あたしはもう、その感覚を微塵も疑わないようになっていた。

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