41話 side 白雪澄乃
「そっか、そっか……」
あたしは自宅に帰りながら、さっきまでの間森さんの様子を思い返していた。
間森さん、不安で生きてることが分からなくなって、あそこまでになっていたんだ。
だけどその理由が、大人になれるか分からないから?
夢を叶えられるか分からないなら、生きてなくたっていい?
ほんと、子供。
いくらなんだって、呆れてしまう。
もちろん、あたしに対する申し訳なさもあると思う。
間森さんは本当きっちりしていて、何かされたら何か返さなきゃとか期待に応えなきゃいけないという気持ちが強い。
成績が伸びたのは元からの要領の良さもあるけど、あたしの思いに応えたいっていうのは分かっている。
それが面白くてあたしがいろいろしちゃったけど、ここまで早く結果が出るのは想定外だった。
でも、改めて考えると当然だって思う。
間森さんにはすごい人物になる素質があり、あたしは特別な人の為ならなんだってできるんだから。
あたしたち二人が居れば、何でもできる。
違うか、あたしが居れば間森さんは何だってできる。
そう、あたしは間森さんを何でもできるすっごい人にできる、そんな力を持っている人間なんだ!
「あははは!そうだ、すごい!あたしすごいことできる!当然だよね!あたし、特別な人間なんだもん!」
夜中の住宅地に、あたしの心からの笑い声が響く。
ああ、なんて気持ちいんだろう。
あたしの特別な力で誰かを変えて幸せにできるって、なんて気持ちいんだろう。
「今の間森さんはあたしが居ても、一人で心の積み木を積めないくらいになってる。だったら、あたしが代わりに全部積んであげるしかないよね」
あんな迷いがある状態だったら、いくらあたしが促して積んでみようって言っても手は止まってしまう。
それじゃあ、間森さんの目標にしている時期には間に合わない。
でも、あたしだったら積むことはできる。
間森さんの理想の心の積み木を代わりにあたしが積んであげればいい。
それが間森さんの幸せになり、その力があたしにはあるからこの問題に対する当然の帰結だ。
「これからは予定を変更して、あたしが全部、心の積み木を積んであげないと。つまり、間森さんの理想の大人を作ってあげないといけないよね」
そうなると、と考えると直ぐに答えは見つかる。
「中途半端に積んである間森ひなっていう人間の心を徹底的に全部崩しちゃわないとダメだ。基礎から全部あたしが積んであげたほうが、早く正しく大人になれるはずだからね」
じゃあ、今日のお願いだって当然聞いてあげないといけない。
聞けないって言ったら、間森さんはあたしの行動に疑問を持ってしまう。
それにあたしの手にまだ残っている、間森さんの喉から伝わった感覚を忘れることができない。
首の太さに呼吸、気道の感覚、死にたくないって伸ばしてあたしの手に食い込んだ爪の痛み。
その全てが、あの時間森さんの全てを握ってたって教えてくれていた。
生きるのも死ぬのも、輝かしい未来も、間森ひなの人生全てをあたしが握る事を許されていたってことだ。
ああ、なんてすばらしい人間なんだろう、あたしって。
今の気持ちを、あたしの持っているどんな言葉でも形容できなかった。
ただあえていうならば、快楽。
そこで、あたしは間森さんが言っていたことを思い出した。
「嬉しかったっていってたよね。あたしがしたこと、喜んでくれた。だったら、してあげないといけないよね。間森さんの幸せのために。ああ、運命の人を幸せにできるってこんなに気持ちいんだね」
なら、あたしの次からやる事はもう決まっている。
「次はもっと……悦ばせてあげるからね。間森ひなさん」
運命の人の願いを叶えるのに、何の間違いがあるのだろう。
間森さんの幸せのためなら、あたしは何だって出来るししてみせる。
そう、間森さんのシアワセのためなら、なんだって。
「だからね、近い内に……壊してあげる。貴女の一人でいびつに積み上げてきた心の積み木を、幸せのために基礎から全部。あはは!そんなことになったら、あたしどんなに気持ちいいんだろう!今日と同じくらいかな?今日より、もっとかな? そうだよね!運命の人である間森さんを本当に幸せにできることを想像できるから、こんなにも気持ちが昂っちゃうんだよね!」
あの間森さんのいびつな心を全て壊すことができたら、それはあたしたち二人にとって最高の日になるに違いない。
だって、それは運命の人である間森さんが本当に幸せになれるきっかけになる素晴らしい日だから。
そうなると目標の日を、ちゃんと決めないといけない。
そうだ、出来る事ならばその日は間森さんの誕生日がいい。
まぁ、最近の様子と間森さんの言動から何となく日付の目星はつけているが、確実なのものするためにやれることをやっておかなければいけない。
今までの間森ひなが死んで、新しい間森ひなが生まれるには誕生日という日はぴったりだ。
目標と日取りが決まれば、それに向けてあたしは全てを準備するだけだ。
「待っていてくださいね、間森さん。あたしが間違ったあなたを殺して、新しい間森ひなに生まれ変わらせてあげますからね。大嫌いな誕生日を、忘れられない大好きな日に変えてあげますからね!あははははっ!」
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