13話

「ほんんっと、助かった、ありがとう」


「いえいえ、お礼なんて。あたしの方こそ、ありがとうございました」


 もう時間は夜の7時近くになったので、勉強会はここまでってことになった。


 お母さんが白雪さんもご飯にって誘っていたけれど、すごい丁寧にしっかりと断っていた。


「気にしないで、ご飯、食べていけばいいのに」


「ダメです。さすがに初めてお邪魔させていただいて、さらにご飯をごちそうになるなんて。さすがに躾の悪い女の子って見られますから」


 そんなことあたしは気にするはずはないし、そんなこと親が言ったら全力で否定してあげるつもりなんだけどな。


 だけど、白雪さんには無理を言うのはなんか違う気がした。


「本当に助かった。また、明日とかいつでもいい。時間あったら、一緒にやってくれる?白雪さん教えるの上手だし、それに、その、白雪さんにの勉強にもなるんだったら……って」


 ああっ、なんであたしはこんな風にしか言えないの?


 素直に、勉強会やりたいからまた付き合ってくれる?でいいじゃない。


 何で、こう言い訳みたいな言葉繋げちゃうの?


 なんか、子供みたいで恥ずかしい。


「え?あ、あの、いいんですか?」


 そんな焦りなんて知らない感じで、白雪さんはきょとんとして首をかしげるっていういつもの可愛いしぐさをしていた。


「いいに決まってる。っていうか、こっちからしっかりお願いしたいくらいなんだから」


「あ、あ、あ……は、はいっ!」


「え?」


 白雪さんの返答の表情を見て、あたしは失礼なんだけどそんな声を出してしまった。


 浮かべていたのは満面の、すっごくかわいい笑みだった。


 白雪澄乃って女の子の笑みは、名前にぴったりだった。


 真っすぐで澄んでいて、踏み荒らされてない白い雪原のように綺麗な笑み。


 こんな表情をされたら、あたしまで今日の沈んでいた心なんて忘れるくらい嬉しくなっちゃう。


 それに、これって約束を守ってくれたって事。


 だから、余計に嬉しかった。


「白雪さん、出来たよ。約束してくれた、笑み。本当に約束を守るの、得意なんだね」


「あ、は、はいっ!できました、あたし。自分でもわかるくらい、しっかり笑えました!」


 ちょっと興奮してるのか白雪さんは早口になってるけど、顔はなんだかすごくすっきりとしてる。


「あの、間森さん!あたし、できましたよ!約束、守ったの、見てくれましたよね?」


「うん!ばっちり!」


 あたしが浮かべた笑みも、白雪さんに負けないくらいだったと思う。


「あたしは、いつでも大丈夫ですから。一緒に勉強して、一緒に期末テスト頑張りましょうね」


「うん!」


「それでは、間森さん。また、明日」


「うん、じゃあね。今日、ありがとう」


 丁寧にドアを開けて白雪さんは、闇に解けていった。


 本当に今日は、楽しくていい日だった。


「楽しかった」


 あたしの口からはそんな言葉がこぼれて、自然に笑っていた。


 あれ?でも、あたしこんな感じで前に笑ったの、何時だっけ?


 こんな感じに笑うって子供だって思って、あたしはいつからか今日みたいに心から笑ってなかった。


 あたしの思う大人は、こんな事で嬉しくならないはずなのに。


 それなのに今のあたしは、大嫌いなはずの子供みたいに笑ったことがすごく嬉しかったんだ。


「なんで……?」


 あたしの素直に、つぶやいてしまった迷い。


 だけど、それに答えてくれる人は誰もいなかった。

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