12話

「おじゃまします」


「ごめんね、ちょっと汚れてるけど」


 誘ったのはあたしって事で、勉強の場所として選んだのはあたしの部屋。


 白雪さんの態度はここまで完璧で、あたしの親も感心したほど。


 途中で


『間森さんのご両親に、お土産ないけどいいですか?』


 なんて聞いてくるくらいだから、本当にしっかりしてるんだと思う。


 挨拶も何もかもしっかりしてたので、親の印象はかなり高いと思う。


「いえいえ。では、やりましょうか」


「うん、よろしく」


 白雪さんはほんっと真面目らしく、すぐにぺたりと座ってリュックからごそごそと教科書と筆記用具を取り出した。


「それで、今日は何を中心にやります?」


「あ、えと、それなんだけど。実は、最近はどの教科も勉強分かんなくって……」


「え!間森さん、いつも真面目に授業してる感じしますけど?」


 いや、受けてるのは受けててノートはしっかり取ってるんだけど、あとで見返してみると細かいところがさっぱりと分からない。


 だけど、そこまでなんて言えずに押し黙ってると白雪さんがはっきりと頷いて、あの真剣な目を向けた。


「わかりました。あたしがどこまでお役にたてるか分かりませんけど、いっしょにやりましょう。どの教科でも、あたしお付き合いします」


「白雪さん、いいの?」


「大丈夫です。あたしとしても復習や確認をしたいですから。それに、間森さんのお役にあたしは立てたって思ったら、きっと……って」


 こっちを見ていた白雪さんが、最後だけちょっとだけ俯いて白雪さんが自身に確かめるように小さく呟いて頷いた。


 そこはよくわかんないけど、どうやら一緒に勉強するのは大丈夫らしいってことだ。


「じゃあ、お願いするね。最初は数学なんだけど――」


「はい。お任せください」


 おさげ髪を後ろで一本に白雪さんは結びなおして、大きく頷いた。




「あの、白雪さんすごくない?」


「何がですか?」


 数学がひと段落したところで、あたしは素直に漏らしたんだけど白雪さんは相変わらず小首をかしげていた。


 無自覚だとしたら、更にすごい。


 ちょっとでも困ってくるとすぐに気が付いてくれるし、説明も本当に事細か。


 こっちの分からない理由を徹底的って程じゃないけどしっかり聞きだして、それに対して白雪さんなりに視線を合わせて考えてくれてる。


 それも押し付けたり、こっちをバカにしたりする印象は一切ない。


 だからこっちは受け取りやすいし、分からない理由もわかる。


 これって、先生の授業よりずっとわかりやすくない?って思うほど。


「ほんと分かりやすかった。白雪さんすごいね」


「すごくないですし、あたしも助かりましたから」


「白雪さんが?」


 あたしに教える時間が結構あったし、白雪さんの邪魔してると思ったんだけどすぐに首を振った。


「人に教えるってことは、自分が理解してないとできない事です。間森さんに教えたってことは、あたしも理解が深まったってことですから。それってあたしもすっごく勉強したってことなんですよ」


 さらっと白雪さんが口にした言葉に、あたしはぽかんってしちゃった。


 あたしも誰かと一緒に勉強して、教えることあったけどこんなことこんなこと一度も考えなかった。


 白雪さんって、いったい何者なんだろう。


 同い年なのに、こんなすごい事考えられるなんて。


「だから、ありがとうございます」


「え、えっと……」


「あ、ちょっと休んだら次は何やりますか? まだあたし時間は大丈夫ですから、一緒に勉強しましょう」


「うん!お願い!あ、次は――」


 白雪さんに勉強を教えてもらう事を頼むことに抵抗がなくなっていたあたしは、素直に次の教科の教科書を広げていた。

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