11話
やばい、やばい。
高校の期末テストって、こんなに緊張するの?
それぞれで言われた範囲も、バカみたいに広い気がする。
今日からテスト期間ってことで、課外活動も禁止。
でもなんだかみんなは、今日あたりは適当に遊びに行こうなんて話してる。
まさかみんな、余裕?
うちの学校は確かに偏差値高いけど、それにしたって周りのレベルも急に上がりすぎじゃない。
どうしよう、中間は何とか真ん中くらいだったけどこれ以上下がるのは絶対イヤ。
まともに大人になれないばかりじゃなくて、みんなにどう接していいのか分からなくなりそうだ。
「でも、誰か……」
いつもあたしが仕切ってる友達相手に、勉強教えてなんてかっこ悪くて言えるはずもない。
でも、あたしにはある問題がある。
それは、一人で勉強するのがどうしても苦手ってこと。
高校受験の時は、無理やり塾に通ってそこの雰囲気と塾の先生のおかげで必死に勉強できたくらい。
でも、今あたしは高校生になったんだから、それくらい出来る様にならなきゃだめだ。
あたしは大人にならないといけないし、今だってみんなに比べたら大人なんだから。
テスト期間3日前の朝。
「ひな、どうしたの?」
「疲れた」
いつもだったら怒る名前呼びだけど、それに反応する元気すら今のあたしにはない。
「ちょっと、大丈夫?もうすぐテストなんだから、体調まずかったらやばいって。無理したらダメだよ?」
ああ、分かってる、分かってる。
分かってるけど、そんなこともできてないって思うだけで焦りと情けなさで叫びたくなっちゃう。
友達に対してイライラをぶつけるなんて、最低の子供。
だけど、それをしたくなってるって自覚してるだけによけにイライラしてしまう。
いつものように話そうとしても言葉がきつくなってしまうって思うから、悪いって思うけど無視っぽい事をさせてもらう。
「ねぇ、やばくない? あのさ、あたし先生に――」
「大丈夫」
自分でも棘があるってわかるくらいの口調で、聞こえてきた友達の言葉を遮った。
先生に言って保健室に行くとか早退とかって言うつもりなんだろうけど、それはダメだ。
あたしが、子供もみたいに思われちゃうじゃない。
「間森、無理しないでね。なんかあったら頼ってもいいから」
友達のそんな言葉が、あたしを余計にいらつかせる。
子供のみんなに心配される筋合いはないし、子供に頼るなんて大人のすることじゃない。
あたしはみんなより大人で、立派な大人にならなきゃいけないんだ。
それなのに、あたしより子供のみんなに頼ってもいいからなんて言われるのはイライラする。
だけど、そのイライラをぶつけるなんてする気力も体力もないので、あたしは答えないで言葉を飲み込んだ。
ホームルームが終わって放課後になっても気分は最悪だった。
授業の内容はいつもと違って頭に入らないし、なんかみんなの話しに混ざる気もしない。
こんなイライラしてるなんて、子供っぽい自分を見せるのが嫌だ。
でも、このままだと勉強しても頭になんて入らないのは明らか。
「あー、どうしよ……」
学校だっていうのに、弱気な言葉がこぼれた。
誰かに聞かれてたら最悪だけど突っ伏してるあたしの言葉をまさか誰も聞いてるはずはないし、みんなは帰ってるっぽいのは音で分かるからこんな中であたしが言ったなんて気づくはずもないから大丈夫。
「間森さん、何かお困りですか?」
「白雪さん!?え、今、聞いて?」
「お力になれることでしたら、何でも言ってください。あたしでお役に立てるならなんだってしますよ」
あたしのごちゃごちゃの動揺なんて全く知らないように、顔を上げた先の白雪さんは心配って言葉なんてなくてあたしと一緒の時と同じような真剣な目だった。
「聞いてたの?」
「間森さん、そんな顔して……。一体、どうしたんですか?」
「顔?」
「ひどいです。なんか、すごく気持ちがごちゃごちゃしてる……そんな顔です」
そんな顔をしてたなんて最悪だし、見られたなんてもっと最悪。
恥ずかしいし情けないけど、白雪さんの表情には同情も何もない。
相変わらず、真っすぐな澄んだ瞳と表情であたしを見つめている。
「黙ってて。こんなこと言ったの」
「わかりました」
あれ?それだけで、何もないの?
他の子だったら、心配だからとか言っていろいろ言ってきそうなのに白雪さんは何も言わないで頷いただけ。
「あの……」
「何でも、言ってくださいね。さっきも言いましたけど、間森さんのお役には立ちたいですから」
何、これ。
どういう意味で、白雪さんがこんなこと言ってるのか分かんない。
こんな事、言われたこと初めてだ。
突き放しているわけでもないし、べたべたしてるわけじゃない。
ただ、分かるのはこの距離感が今は心地いいってこと。
「わかった、白雪さん。今日とか時間は?」
「腐るほどありますよ。元から部活や同好会入って無いですから、いくらでも間森さんにお付き合い出来ます」
断わられるかもって思ったのに、すぐに返ってきたのはそんな返事。
くっそ、こういわれたら断れないじゃないか。
「勉強しよう、一緒に。っていうか、あたしの勉強一緒にして」
あたしにとってはすっごく勇気のいる言葉ったのに、白雪さんは真っ直ぐ見て迷う事もなく小さく頷いた。
「それくらいでしたら、全然。一人でするより誰かと勉強したほうが、頭が入る方いますからね」
「白雪さんは、迷惑じゃない?」
「迷惑?何、言ってるんですか。あたしさっき言いましたよね、間森さんのためにお役に立てるならなんだってしますからって」
目の前の白雪さんは恐る恐るのあたしとは正反対の、堂々とした大人みたい。
いつもはダメかもしれないけど、今日はその言葉を受け取った方がよさそうだ。
「ありがと。じゃあ、ちょっと付き合ってくれるかな」
「はい、喜んで」
ふらつきながら鞄を持って立ち上がったあたしの後を、白雪さんは小走りでついてきた。
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