10話 side 白雪澄乃
「間森ひなさん……か」
あたしはさっき別れた間森さんの事を思い出しながら、家路についた。
さすがにこの服と格好がばれたときは、もうおしまいって思ったのだけれどそんなことはなかった。
間森さんは、そんなあたしの全部を受け入れてくれた。
だから、それはすごくうれしい事で、今日は特別な日。
「でも、ちょっと変だよね。間森さんって」
間森さんは面倒を見たがるっていうか、世話焼きの性格だと思う。
じゃなかったら、お兄ちゃんに捨てられるという当然の罰を受けて、学校でどうしようもなくなっていたあたしに声をかけるなんて変わったことはしないはずだ。
凄い感謝してるけど、最近一緒に過ごしていて一つ気になる事がある。
間森さんは大人ぶってるように見えて、中身がすっごく子供だってことだ。
本人は行動や判断基準は、大人としてってことで選択してるつもりなのは明らか。
だた、その基準がどうもおかしかったり、判断を無理してるのが透けて見えてしまう。
そして、それのせいで持っている子供っぽさが強調されることに、間森さんは気が付いてるんだろうか。
特に深く考えてるつもりでも、モノサシは自分の一本だけでしか世の中を計っていないし、そこでしか見てない。
それなのに大人としての行動をしようとして、必死に取り繕ったり背伸びしている。
あたしにはそんな間森さんが、ちぐはぐに見えて心配になってしまう。
「大人になりたいんだろうな」
それだけ必死になってるってことは、間森さんは誰よりも速く、一秒でも速く大人になりたいんだろう。
その理由は分からないけど、それが間森さんの夢だと思う。
「そうだ、あたしも子供だけど、きっと間森さんが大人になるためにいろいろ一緒に考えてあげることはできる」
たぶん、そうしたら白雪さんに喜んでもらえるかもしれない。
でも、どうやったらあたしの考えた思いや意見を聞いてもらえるんだろう。
今のままじゃ、全然受け入れてはもらえない。
何せ、間森さんのなりたい夢がかかってるんだ。
今日答えたバイトの悩みの回答のように、簡単には受け入れたり考えてくれないのはすぐに予想できる。
でも、この悩みの答えをあたしは実はもう持ってる。
それは、あたしが誰かの『特別』になれるような『特別な』人間だってこと。
小さい頃に親や幼稚園の先生に言われていたことを、あたしは今もはっきりと覚えている。
『澄乃ちゃんはすごいね。誰かのためにならすっごくすごい力が出せるんだね。いつかその力で大切な人の力になってあげられるはずだね。そんな澄乃ちゃんはみんなにできないことができる特別な女の子なんだよ』
そう、あたしは小さい頃から特別って言われる女の子。
だから、きっと間森さんにとっての大切な『特別』になれるはずだ。
お兄ちゃんの特別になれなかったのは、きっとあたしが特別になる値しない人間だったからだ。
間森さんは違う。
じゃなかったら、お兄ちゃんにフラれた後にあんな運命的な出会いをするはずないし、今日のような時間を過ごすなんてない。
そうだ、間森さんはあたしの運命の大切な人かもしれない。
だったら、あたしが間森さんの特別な存在になるのはもう決まってる。
だから、あれこれ考えるなんて無駄。
あたしがちゃんと間森さんの事を考えて行動すれば、そんな大切な存在にすぐになれるに決まってる。
だってあたしは『特別』な人間、なんだから。
「あたしはなるんだ。間森さんのために、間森さんの特別に。うん、そうだ、それがあたしの生きる理由で、生まれてきた理由なんだから、当然だよね!」
もう、お兄ちゃんなんて偽りの運命の人に存在に縛られる必要はない。
本当の運命の人、間森ひなさんに出会えた事に気が付いた嬉しさが、あたしのココロを軽くしていった。
「……待っててください、間森さん。すぐに、側に行きますから」
うん、きっとすぐに特別になれる。
あたしは、約束をしている。
約束を守るのは、あたしは得意なんだから。
約束を守れば、あたしは間森さんの特別になれるんだから。
「貴女の側にすぐに行きますからね。本当に、すぐですから。待っててくださいね」
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