18話

 頭の中が整理できていないあたしは、全く考えもしないでただこんな言葉を漏らしてしまった。


「あ、あのさ、他には何かしてないよね?」


 もう無いって言ってほしいってあたしの思いは、間髪入れず返ってきた白雪さんの返答で打ち消された。


「間森さん……。いいですよ、お話しします」


 そこから聞かされたのは、さらに信じられない事ばかりだった。


 はっきり言って、吐き気がして聞いた事を後悔するくらいの事がたくさん出てきた。


「これくらいになりますけど、どうですか?変ですか?」


 それなのに、白雪さんは全く罪悪感なんて持っていないみたいだった。


 言い終わった後に向けてきたのは、いつもの小首をかしげる表情だった。


「変だよ!なんで?なんで郡司先輩は、大切な妹にこんなことして平気でいられるの? それに、白雪さんもだよ!なんでいけないことできるの?平気で!」


 心に合った思いが、あたしは一気に噴き出した。


 こんな事を、平気できる人なんて普通じゃない。


 そして、こんなことを白雪さんには異常で悪い事をしたって思ってほしかった。


「いけないこと……ですか。それは、間森さんの基準ですよね」


「え?だ、だってこんなこと誰が考えたって!」


「誰がって、誰ですか?本当に、誰もがそう思うって言えるんですか?あたしは最低限それには当たりませんよ」


「そ、それはっ……」


 白雪さんからの言葉は、まるであたしの言葉を先回りしてるみたいだった。


 予想済みっていう感じで、淡々とすぐに事あえてあたしの考えを潰していく。


「間森さん、そう言うところ。子供なんですよね」


「なっ!?」


 言葉に詰まっていると、白雪さんがなぜか笑顔でそんな言葉をあたしに投げかけた。


 あたしが子供?


 なんで?


 何で、今のあたしの行動が子供って思えるの?


 訳の分からなさと、子供って言われたことであたしの頭はさらに熱くなっていった。


「って、今はそんな話ではないですね。どこがおかしいんでしょうか。お兄ちゃんは幸せで、あたしも満足。それの何がおかしいんですか?」


「そ、それは……」


「答えられませんか?」


「おかしいよ!あたしはおかしいって思ったんだもん! だってだって、そんな無理してお金稼いで正しい方法じゃないよ! それを女の子のためのデートに使うなんて、お金を渡す白雪さんも、それを平気で使う郡司先輩も絶対間違ってる!」


 試すような白雪さんに対して、あたしの想いは迷うことなく口から激しく吐き出された。


 おかしい、絶対におかしい。


 こんな事は、許せることじゃない。


 ただその思いに任せた言葉を、目の前で平然としている白雪さんにぶつけた。


「ふふ、本当に間森さんは――真っすぐなんですね」


「だって、おかしいのはおかしいんだもん!」


「では、どうしたらいいのでしょうか? 間森さんはあたしに教えてくれると言う事でしょうか?


「あたしが、導いてあげる。正しい方向に、友達として」


 大人のあたしとしてで居ることは当然、白雪さんを今の場所へ正しい方向へ引っ張ってあげる事。


「友達……ですか」


「白雪さん言ってくれたよね? あたしたちは友達だって。それだけじゃない、特別な友達になりたいって」


 だけど、ただの関係、当然友達じゃ引っ張っていけないし、あたしももう白雪さんをただの友達なんて思っていない。


「だったら、あたしが一番の特別になってあげる。そうなって、白雪さんがちゃんとできるように一緒に居てあげる」


 そう、一番の特別っていうくらいに思わないと白雪さんをあたしは引っ張っていけない。


 絶対に、この目の前の人間を導いてあげたいと思っていた。


「一番の……特別」


「そうだよ、一番の特別になってあげる。それとも……あたしじゃダメ?」


「そんなことないです!間森さんの一番になれるなら……それに、一番になら……あたしはもっと頑張れます」


 そう、白雪さんは誰かのためになら頑張れる人。


 なら、今回の状況だって一番の特別のあたしが言うならきっと頑張ってくれるはずだ。


「今日のこと、あたし絶対話さない。白雪さんがきっと、言いたくなったことだし知られたくなかったはずだから」


「あたしは別に誰にお話ししてもいいと思ってるんですけど。でも、友達の言う事ですからね。それも大切な一番の。あたしも、このことは誰にも言いません。知っているのはお兄ちゃんとあたし、そして間森さんだけです」


 白雪さんにとっては、あの事は本当に他人事なんだって改めて思う。


 だけど、言わないって言ってくれたことと、一番の友達って言ってくれたこと。


 それは確かに、あたしの事を見てくれてる証拠だった。


「その代わり、あたしが白雪さんを引っ張っていってあげる。こんなことで満足とかしない世界に連れっていける羅針盤になってあげる。今日は、話してくれてありがとう。それと、ごめん」


「謝らないでください。あたしは嬉しいんです。きっかけはこんな感じでなんか不思議ですけど、誰かの一番の特別な友達になれたって事が、すごくうれしいんですから。それでは……」


 白雪さんは胸に手を当てて、一度目を閉じて深呼吸した後に真っすぐの澄んだ瞳をあたしに向けてきた。


「一番の特別な友達に、あたしを選んでくれてありがとうございます。改めまして、白雪澄乃です。よろしくお願いしますね、間森ひなさん」


「うん、よろしく。白雪さん」




 白雪さんがあんなことしてたなんて、信じられない。


 それより許せないのは、先輩だよ。ただいい様に使って、それで邪魔だから捨てたたようなもんじゃない。


 何とか、したいよね……。


 白雪さんだけじゃない。他の子だって、先輩がこんな人だって言うなら危ないし。


 それ以上に……


「あたしの大切な人を狂わせた人、絶対に許したくない」

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