17話
動揺するあたしと正反対に、白雪さんは『何か特別なことでも言いましたか?』と言わんばかりの、いつもと変わらない淡々とした横顔。
「でも、どうやって? 白雪さんがバイトしたとしても、そんなにお金貰えないよね?」
「間森さん……。これはきっと、知らなくてもいい事ですし、恐らく噂の答えです。どうしますか?」
あたしの疑問に白雪さんは、なぜか呆れたように一つ息をついてそんなことを聞いてきた。
「どうするって? だって、そんな事まだ……。それに、信じられない」
「今からお話する方法は、誰でも知っていていることで、あたしには日常だったことです。今は必要もないですからやる予定はないですけどね。でも、少し変わってはいることではあります。間森さんがこの後、あたしの事を変って目で見てしまうかもしれませんから、確認です」
「いいよ、聞かせて」
あの白雪さんがためらうってことは、もしかしたら結構すごいことかもしれない。
でも、あの白雪さんがそこまで変な事じゃないはずだ。
「男性の方とお出かけして、対価としてお金を貰うってお金の稼ぎ方があるんです。お兄ちゃんがお金が必要っていうメールが来れば、あたしはその度にやってましたよ」
「ちょ、ちょっとそれって!」
それって、身体売ってるってるってことしか考えられなくない?
あたしが慌てて立ち上がったのに、白雪さんはこっちを見ていないけどいつもと様子が変わった様子はない。
白雪さんは慌てるあたしに、表情を向けた。
そして、その表情は何も変わっていないいつもの白雪さんだった。
「あの、勘違いはしないんで欲しいけど、間森さんが想像しているなことはしていませんよ? 相手の方の立場もありますし、こちらの身に何かの証拠が残ってしまっては色々面倒のになりますからね。あくまでもお出かけです。ともかく、その日初めて会った男性の方と食事をしたり、お話をしたり、お散歩をする程度。その返礼としてお金や物品を貰って、それをお兄ちゃんに渡してました」
「嘘……」
白雪さんが言っていた、日常。
その言葉が、あたしの中で繰り返して、混乱がさらに広がっていく。
「最初はあたしも不慣れで、お兄ちゃんの期待に完全には答えられませんでした。でも始めて2年も経つと大体うまく行くようになって、今では満足させられないってことはないくらいです」
「2年……って?」
「最初にした時は中学1年生。まぁ、さすがにいくら背伸びしてもって思っていたのですが、幼い高校生のふりしてると意外に何とかなりました。理由は今でもわかりません。気が付かなかったのか、気が付いていたけど知らないふりをしていたのか……。でも、あたしには知る必要もない事です。必要なのは、お金確実を貰って誰にも気が付かれず、お兄ちゃんに渡すと言う事ですから」
これは、白雪さんにとって本当にそれは日常だったんだろう。
話すときの様子は何の特別なことを話す感じじゃない。
あの、喫茶店で自分の好きな服の姿の時の話し方とは違くて、学校やさっきの勉強の時のように淡々としている。
「ただ、その為には結構色々工夫をしました。高校生の好きそうな話題、高校生並みの勉強の実力――それだけじゃないです。他にも、色々なことをあたしは身に着けました。あたしが接した限りですけど、バカな子っていうよりもしっかりしていて頭もよさそうな子を相手にしようとする方々ですとがしっかりお金を払ってくれますし、リスク管理も的確でした」
淡々と信じられない事実を告げていく白雪さんが、どんどん別の世界の人間に見えてくる。
話す内容も同い年っては全然思えないし、考え方も明らかに理解できないほど。
危ないおかしい事なのに、その為の準備は恐ろしいほどしっかりと整理されていた。
あたしはそんな、準備を知ったりし自分の考えを整理できている人を知っている。
大人。
あたしの大人、そのものだった。
「そういう人たちのために必要なのは勉強だけじゃない、知識や教養が必要です。時には難しい事もありました。でも、覚えることも、身に着けることも、自然になるまで色々することも苦じゃなかったです。だって、全てはお兄ちゃんの幸せの為でしたから」
白雪さんはしてきたことに、罪悪感を持ってない。
『お兄ちゃんの幸せの為』
その時、あたしに向けられた顔は明らかに無表情から、やわらかい嬉しさを含んでいるものに変わっていたからだ。
「あたしの全てはお兄ちゃんで出来ていました。お兄ちゃんが絶対で、それに従うのは正しいんです。管理はしていたはずですが、ほぼ毎日と言っていいほどでした。だから、どこかで誰かに見られてしまったことが火元となって、間森さんの聞いた噂になったんでしょうね」
以上です、と言わんばかりに白雪さんはふっと息をついた。
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