15話

「えっと、白雪さんはこれだっけ?」


「覚えてくれたんですね、ありがとうございます」


 ちょっと長い話になりそうだったので、あたしは近くの自販機まで行って飲み物を2本買ってきた。


 白雪さんのお気に入りは水出しコーヒーっていうのなので、それを買って来たら嬉しそうに頭を下げていた。


 ちなみにあたしは、レモン水。


 あたしたちは、街灯の下にあるベンチに並んで腰けた。


 公園には誰もいなくって、住宅街ってこともあって本当に静か。


 話さなきゃ。


 そう思ってるのに、なぜか口が動かない。


 どう切り出したら、自然なんだろう、白雪さんが上手く話せるようにできるんだろう。


 相談に乗るってことはしてきたけど、噂を確かめるなんてそんなことしたことない。


 あたしの知ってる大人って人たちが、こんなときどうしてきたかも分からない。


 考えててもいいけど、時間は過ぎちゃう。


 あんまり黙ってても、白雪さんに何か変だって思われちゃう。


 どうしよう、どうしよう。


 こんな時、大人って人たちはどうしてるの?


 わかんない。


「あの、間森さん。あたしに何かあるんですよね。お礼とかじゃない何かが」


 あたしの迷いを中断させたのは、そんな白雪さんの言葉だった。


「え、そ、そう言う訳……」


「気を使ってもらえるのはすごく嬉しいです。でも、あるならあるって正直に言って下さい。あたしは、間森さんの友達になりたいんです。それもただの友達じゃなくて、特別な友達に。一方的だってわかってます、でもあたしは……なれるって思ってますから」


 苦しみをぶつけるようにぎゅっとコーヒーの容器を握っていた手に向いていた白雪さんの視線が、あたしの方を真っすぐに向いた。


「だから、遠慮しないでください。間森さん。友達なんですから、あたしたちは」


「分かった……騙すような事としてごめんね。でも、なんでわかったの?」


「表情」


「え?」


「いつもと違ってました、玄関を出る時も、そもそも誘ってきてあたしが返答したときも。間森さんの表情が、いつもと違ってました。当然、一瞬だけですけどね」


「嘘……」


「あたし、ちょっと敏感なんですよ。それも、間森さんはあたしにとって特別なんですから。それにお礼言うだけなら公園なんて、行きませんしね」


 敵わないなって思う。


 こうなったら、隠したって無駄だってわかったあたしは声を絞り出した。


「噂……白雪さん、なんか変な噂があるって聞いてるんだ」


 その声は情けない事に震えていた。


 嘘だと思っているんだったら、声が震えるなんてない。


 なのに、こんな感じになるってことは白雪さんを信じ切れてないってこと。


 恥ずかしくて情けなくて、あたしは白雪さんを見ることができなかった。


「変な噂……ですか。あたしの変な噂は山ほどありますけど」


「え?」


「はい。お兄ちゃんに関することで、色々と噂は聞いています。間森さんは、それが気になるんですね」


 ドキドキが止まらないとは対照的に、白雪さんはいつもと変わっているところはない。


「あたしだってよくわかんないよ。あくまでも噂だし。でも、友達が危ないことしてるって聞いてたし……どうしても……。あ、そうだよね、違うよね、白雪さんがそんなことするはずな――」


「たぶん、してるんじゃないですか?」


 きっと嘘だと思って強引に話題を打ち切ろうとしたのに、白雪さんからはそんな言葉が返ってきた。


「嘘、でしょ……?」


「噂は噂です。でも火の無いところに煙は立ちませんから、噂っていうのは何か根拠があるからですよね」


「違うよ!それは郡司先輩の側に居たから、みんなが嫉妬なんて子供っぽいことしたから!」


「そうでしょうか? あの、間森さんは何か勘違いしてませんか。あたしの事を」


 感情がごちゃごちゃになってるあたしにも、白雪さんは冷静だ。


 思わず荒くなったあたしの言葉にも、態度はいつもと変わらない


「どういう、こと?」


「あたしは聖人君子ではありません。ただの女子高生です。名字の白雪のように純白な心でも、澄乃と言う名前のようにもきれいではありません」


 白雪さんは、そうはっきり言った。

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