第3話 エンカウント

 目が覚めると、そこには別世界が広がっていた。いや、あえて言おう。ここは異世界だと。


 魔王は深呼吸をし、落ち着いて状況を確かめる。

どうやらここは森の中のようだ。高い木々が生い茂り、その枝々が光を遮り、真上にあるであろう太陽の光を遮っている。

昼間の樹海。これがこの場所のもっとも正確な情報だろう。それ以上の情報を求め、魔王は辺りを探検しはじめた。


 魔王はこの薄暗い樹海を歩く。未知の空間だ。少々気持ちが昂るのも仕方がない。魔王は歌を歌いながら森の散歩を楽しんでいた。

「あ、る、こう。あ、る、こう。私は」


 が、その歌は獣の咆哮をもってかき消された。まるで曲に反応したかのように甲高い獣の叫びが森に響く。

魔王の顔に笑みが浮かぶ。何かがこちらに向かっている。巨大な気配がだ。恐らく先ほどの咆哮の主だ。

森を何かが走る音が聞こえる。地が揺れ、枝々を折りながらこちらに向かっている。


魔王は拳を握りしめる。その中では何か黒いものが揺らめく。

魔王は音のする方を向き、『それ』が現れるのを待った。


 音は近づくにつれ大きくなり、果たしてその主が姿を現した。

 それは獣。ただの獣ではない。体躯は巨大で全長3Mほど。全身を黒い毛で覆い、猿のように細長い手足を持つ。狼に似た貌の怪物である。大地を踏み締める度生じる巨大な爪痕。大きく抉れた大地がその破壊力を物語る。

 獣は細い手足を用い猛速で魔王に迫る。その牙から殺意を滲ませ、その眼からは敵意を浮かべ、必殺の速度で魔王に咬み付いた。


 魔王は獣が顎を開き、その牙を見せた隙を逃しはしない。握り拳から黒い火炎が溢れ、細く鋭い刀の形へと変貌する。

「来いよ、獣」

魔王は獣の牙を『受け止める』為、黒炎の刃をふるった。





 だが、魔王にも誤算はあった。

そう、魔王は異世界という環境に興奮していたのである。

その興奮は黒炎の火力にも影響してしまっていたのである。

受け止めるつもりだった牙ごと、魔王の刃は獣の躰を縦一文字に叩き切った。

「…………………」

すぅ。と一呼吸。そして叫んだ。

「よっっっっっっっわ!!!!!!!!!!」

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