第2話 魔王転職
「異世界、神。と」
「えぇ。神様です」
魔王は珍しく面食らってしまった。この世に生受け千年。一度は世界の果てにまでたどり着いた身ではあれど、異世界などというものに関係したことは一度もなかったからだ。
「…なんにせよ、立ち話もなんだろう。ついてこい、茶ぐらい飲んで行け」
「まぁ。ありがとうございます。ご馳走になりますね」
さて、社の中に■■と名乗った女性を案内し、魔王は自ら茶をたてた。
「抹茶だ。作法は気にせず好きに飲むといい」
「ありがとうございます」
女神は抹茶を呷るように飲むとと一瞬顔を固めた。
「これは、おいしいですね」
「その飲み方でそのコメントは無理がある」
さて、と魔王はわざとらしく言うと本題を促した。
「えぇ。では順を追ってお話します。まずわたくしはこの世界の神ではありません。別の世界の神なのです」
「並行世界のようなものか」
「はい、そのようにも言われます。しかし我々の世界は少々特殊なのです。我々の世界は簡単にいえばあらゆる世界の神が集まる場所なのです」
「あらゆる世界の神…待て。という事は並行世界の神はこの世界とは全く異なる神なのか?」
「似たような神や神話はあると思います。ですがそれだけです」
つまり、魔王の世界に仏やキリスト、オリュンポスの神々がいるように、別の世界には全く別の様々な神がいるという事だろう。更に、この■■の世界はその数多の並行世界から神を呼んでいるということなのだろう。
魔王が説明を把握したことを確認すると彼女は続けた。
「神を呼ぶ、といっても誰でもいいわけではありません。ご自身の世界で人々の生活の根幹となってしまっている方をお呼びするわけにはいきませんし」
「ま、そういう意味では俺は最適であろうな。することもなく退屈していたし。だが…」
「どうかしましたか?」
咳払いを一つすると魔王は述べた。
「そもそも俺は神というより魔王だぞ」
「そうですか」
「いや魔王なんだが」
「そうですか」
「魔王であるゆえそんな世界にh」
「では転職しましょう」
「何?」
「魔王では、とおっしゃるなら転職してしまいましょう!これで問題はないですよね」
魔王は何か理不尽な気がしたがそんなことにはお構いなしに■■は言った。
「ぜひ、我々の世界で神に就職お願いします」
■■は一枚の紙をどこからか取り出すと魔王に差し出した。
「ではこちらにサインを」
魔王は少々渋い顔をしたが、すぐににやりと笑みを浮かべた。
別世界の神々と出会える。中には好戦的な奴や面白いやつもいるだろう。魔王の退屈な世界よりは楽しめそうだ。
「よかろう。この魔王、貴公の言葉通り異世界に行き、神となってやる」
親指を嚙み、そこから血を流す。血に濡れたその指を魔王は紙に押し付けた。
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